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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七十話 鬼剝げ(10)

「だって、いくら拘束してもズデンカさんは逃げるでしょ。殺すこともまずできません。年季の入った吸血鬼は身体をバラバラに裂かれても復活するのですからね」


メアリーはオドラデクを見詰めた。


「でもぉ……」


 オドラデクはごねている。


「そりゃ、頑丈な鉄の箱でもあればいいんですが、列車を利用するわけにもいきませんし、人手にも欠けます。もっともズデンカさんの力ではそれすら破壊されるでしょうけどね。となると聖水や聖剣で弱らせるか。でもあいにく持ち合わせがありません。ちょっとばかりはあったんですが、前に使ってしまいましたからね」


 メアリーは滔々と弁じ立てる。


「ぐぬぬ」


 オドラデクは何も言い返せなくなった。


「それに……」


 とメアリーは片目をつむった。


 これは何かの合図だとズデンカは思った。だが、何かはよくわからなかった。


 オドラデクは渋い顔をして首をこくこくとだけ動かしていた。


――何だかよくわからんが解放してくれるなら助かった。


 ズデンカは安心した。


「じゃあ、帰らせて貰うぞ。もちろんアグ……連れの女と一緒にだが」


 名前は伝えないようにした。後々敵対するかもわからない相手に、情報を少しでも漏らすのは不味いように思ったからだ。


「待て。お前はルナと親しいんだよな。じゃあ、ルナがビビッシェ・ベーハイムと同一人物だと言うことはわからんか」


 今まで黙っていたフランツが突然話し掛けてきた。


「知らねえよ」


 ズデンカは嘘を吐いた。同じだと知れば、フランツは確実にルナを殺すために動き始めるだろうから。


「ほんとうか? 四六時中一緒にいるのにか?」


 フランツはさらに食い下がった。


 どうしても知りたいらしい。


「旅してるからって何でも知ってるわけじゃねえよ。あたしはただのメイドだ」

 言う度にズデンカは自分が嫌になった。他人からルナのただのメイドだと言われたら、腹を立てるに違いないのに。


「そうか……ルナは……」


 フランツは項垂れて言い澱んだ。


「何が言いたい?」


「注意深く見てたら、わかるでしょ?」


 メアリーは笑いながら言った。


「わからんな」


「フランツさんはルナさんが好きなんですよ」


 その言葉はズデンカにとって突如鉄砲玉を食らったような衝撃があった。


――こいつも、ルナを好きなのか。


「いや、そんなんじゃない」


 フランツはあからさまに顔を赤らめた。


「そんなんでしょう。フランツさん話してくれたじゃないですか。ルナ・ペルッツとは子供の頃からの知り合いだって」


「……」


 フランツは黙った。


 恋敵、みたいなことを考えたことはズデンカにはなかった。


 大蟻喰もルナが『好き』だろう。


 カミーユも聞いたら『好き』と答えてくれるだろう。


 だが、その『好き』はズデンカの『好き』は少し違うような気がする。


 そして、たぶん、眼の前にいるフランツと、ズデンカの『好き』はとてもよく似ている。


 ほとんど会話していない相手のはずだが、直感でなぜだかわかった。


 つまりは、恋敵だ。


 そんな、相手が現れたのだ。


 ズデンカは激しい敵意を感じた。それはいままで敵対してきた相手、例えばカスパー・ハウザーとは別のものだ。

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