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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十九話 大物(9)

「ニコラス・スモレット」


 メアリーはフランツの表情を窺いながら言った。 


「ニコラスが!」


 フランツは驚いた。フランツがイホツク・アレイヘムの元で修行生活を送っていた頃、共に学んだ同志だ。メアリーと同じオリファントの出身なので、情報が伝わっていても不自然ではない。


 とりわけ仲が良かった独りで、ルナを除いたらフランツにとって生まれて始めてで来た友達と呼んでもいい存在だった。


 とは言え、今は離れて久しい。しばらく顔を見てもいなかった。


「北部で目撃したと言う話はフランツさんと接触する前から仕入れています」


――力を借りてもいいかも知れない。だが……。


 今の自分の状況を、どう説明すれば良いだろう。シエラレオーネ政府から託されたオドラデクのことはいいとして、犬狼神に、スワスティカ協力者の処刑人の末流の出身の娘が同行している、などと言えるか?


――難しいな。


 隠せば隠すほど不自然に思われるだろう。


――いっそ全て話してしまうか。


 ニコラスを親友だと見込んで、明かすという選択肢も考えられた。


 だが、そんなことをしようものなら、シエラレオーネ政府に報告されてしまうかもしれない。


最近のニコラスがどんな考え方をするのか、それすらわからない。前は気さくないい奴だったと思っていたが、猟人ハンターとして経験を重ねるうち非情な性格になっていてもおかしくない。


 フランツがそうだったのだから。


 猟人たちはたまに情報を交換し合うことがある。


 グルムバッハが生存していたという話も、他の仲間から訊いたことだ。


 だが、そういう情報交換はむしろ以前の交流が何もないまっさらな関係の方がやりやすい。


 だから、ニコラスと会うことは修行時代以来なかった。もう片方の友人だった、パウリスカも同様だ。


 フランツはスワスティカの残党でも有力な者たちを次々と葬ったため、仲間うちでも有名になっていることだろう。


「俺としては……あまり気が進まないな」


 フランツはぼやいた。


「でも、ルナ・ペルッツを仕留めるには数が多い方がいい」


「仕留めるとまでは言っていない」


「はいはい。シュルツさんの逡巡とまどいがまた始まった。いいですよ。ごゆっくりお話になられたら。でも今の人数だとそれも覚束なくなるかもしれないって私ちゃんは言ってるだけです」


「……」


ニコラスとは長い付き合いだったが、ルナのことは一言たりとも口にしていなかった。当時は自分が振り捨てた過去のつもりだったからだ。


 だが、今になってフランツはルナに拘っている。


 相手と離れてしまってから、かえって想いが増すとは、なんということだろう。


「ニコラスさんはなかなかの手練れかと」


 メアリーは念押しをするかのように言った。


「それはわかっている。俺は一番な」


「なら、すぐにでも助力を乞うべきです」


 メアリーがなぜここまで、フランツがルナと対峙することに協力してくるのか、理由がよくわからなかった。


いや、フランツ本人が言い出したからなのだが、メアリーは赤の他人でもあるし、ルナには憎しみも執着も何も抱いていないはずだ。


 何か裏があるのかも知れない。

 

まったくフランツが思い至らないような裏が。

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