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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十九話 大物(8)

「もちろん、斬る!」


 フランツは食い気味に叫んだ。

「なるほど、ですが、ジムプリチウスは厄介な相手です。百の顔を持つ、とも言われている」


 まだまだ弱小政党だったスワスティカを、政権を握るほどの存在まで押し上げたのがジムプリチウスだ。


 カスパー・ハウザーの二つ名が『銀髪の幻獣』なら、ジムプリチウスは『百顔の猿』と呼ばれていた。現れる度にさまざまな顔を変えたと言われている。


 大戦中は求心力を維持するために中年男性の姿で通していたが、その正体は一切不明であり、何者も知らない。元より「阿呆ジムプリチウス」も通称で本名すらわからないのだ。


 スワスティカの瓦解直後に失踪し、以後ハウザーと共に重要指名手配犯とされていた。


「どんな顔をして近付いてこようが……」


 フランツはいきり立った。


「普通、顔を変えられるやつってのはやっかいですよ。とくに殺し合いにおいては」


 メアリーは冷静に返した。


「なぜだ?」


「つまり、オドラデクさんやファキイルさん、誰でもいいですが、あなたの身近な人に変装して不意打ちできる。シンプルに考えればわかるでしょう?」


なぜ、こんなこともわからないのかとでも言いたげな驚きの表情を見せながらメアリーは語った。


 フランツは腹が立った。


「まだやつが何でも変身できるかどうかはわからないだろ。ある種の対象には変身できることはわかったが」


「でも、十分ありえるでしょう。大蟻喰だって似たようなことはできるようです。その事例を訊きました」


「お前は本当に情報通だな」


 フランツは呆れた。


「これぐらいじゃなきゃ処刑人として生き残れませんよ。とくに私のように末端の生まれなら」


「ぼくだって似たようなことはできるから大丈夫です! このクソ女の言葉には耳を貸しちゃいけないですよ!」


 我慢しきれなくなったオドラデクが走り込んで来た。


「出来たとして、向こうが変装してきたときそれを見抜けますか?」


 意地悪な目でメアリーはオドラデクを見た。


「やっ、やれますよ! 勘で!」


「はい。無理そうですね」


 言い返せなくなったオドラデクは怒りにまかせてメアリーをパンチした。


 メアリーは瞬時にそれを避けた。さらにパンチ。また避ける。


「むきい!」


 オドラデクはすっかりふて腐れてしまった。


――ふざけたやつだが、オドラデクもなかなか強い。本気で殴り掛かったのに見事躱すとは。


 フランツはメアリーの底力にたじたじとなった。


「不毛な争いは止めましょう。変装できる相手と戦うには、やはり特殊な能力を持った者を仲間に引き入れた方がいいでしょうね」


「やはりその決論になるか」


 フランツはため息を吐いた。


「万全を期した方がいいってことです。腕の立つ者を近場で探しましょう」


「あまり賛同出来んな。俺はスワスティカ猟人ハンターだ。存在を多くに知られれば知られるほど厄介になる」


「ふむふむ。確かにそれは厄介かもしれませんね。もっとも、私ちゃんにとったら知ったこっちゃなんですが……なら、こうしましょう。幸い、ゴルダヴァにはスワスティカ猟人が他に潜伏してます。まあハウザーにジムリチウスがいるんだった追ってくるでしょうけどね。あなたもご存じのはずです。ぜひ合流しましょう?」


 フランツは驚いた。


「誰だ?」

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