第六十九話 大物(7)
「さて。パヴィッチに着いた後の話です。幸いにしてルナ・ペルッツが生きていた場合を考えましょう。戦うのは一筋縄ではいきません。どう言う手段をとるか……まあ不意打ちが妥当でしょう。でも、シュルツさんは話もしたいと言っている。じゃあ、この線は無理でしょう。それに吸血鬼のズデンカも絶対にペルッツさんを守ってくるはずです。この二人を引き離さなければならないでしょうね」
「簡単に引き離せるならば苦労しない」
フランツは答えた。
「ズデンカさんと互角、あるいはそれ以上に戦えるのはファキイルさんです。ファキイルさんにやってもらうことになりそうですね」
「フランツが言うなら」
ファキイルは答えた。表情は変えていないが、メアリーをなんとなく警戒しているのかなとフランツは思った。
「現場に着いてからにする」
「それじゃ遅いこともあるんですよ、世の中には。目線で会話を交わすことも可能ですけど、われわれの間にはまだ信頼がない。だから事前に、前もってほぼ完璧に計画を整えておく必要があるんですよ」
メアリーは静かに言った。
「じゃあ、ファキイル、頼む」
「うむ」
ファキイルは頷いた。
「ってシュルツさん、子供みたいですね。そんなに簡単に意見を翻してしまうと拍子抜けです。もう少し抗うかと持っていたのに」
――うざい。
フランツは顔を背けた。
「俺とオドラデクがルナだな。お前がカミーユに当たれ」
「いや、他に大蟻喰や、ヴィトルドが参戦してくる可能性も考えた方がいいでしょう。それに前も言いましたが、シュルツさんではペルッツさんを殺すことはまず無理です。なので私が当たるしかない」
腹は立ったが適確な分析だった。ルナ一行は増えていると考えられる。こちらも人員を増やさないと勝てるチャンスを遠ざけることになる。
「カミーユは強いですが、たぶん、会敵してすぐには本当の力は見せてこないでしょう。十分フランツさんかオドラデクさんでも相手できる。大蟻喰がいた場合、オドラデクさんが当たった方がいいです。フランツさんだと確実に負けます。というか喰われてしまいますよ。大蟻喰は喰った人間の能力を自分の物に出来ます」
フランツは汽車が止まるよりも前に、ルナの一行に反救世主を自称して各地で殺害行為をしている大蟻喰なる人物がいることを伝えておいたのだったが、情報通のメアリーは既に知っているようだった。
フランツもオドラデクから名前を訊いただけなので、詳しいことは知らなかったため、驚いていた。
「ぼくがお前の言う通りにすると思ってるんですかねえ」
オドラデクは後ろの方からじりじりとメアリーを睨み付けている。
「でも、そうじゃなきゃシュルツさん死んじゃいますよ。このなかで一番弱いのはシュルツさん、それは間違いのないことなんですから」
メアリーの観察眼は正しい。フランツも長らく同じことを思い、己の至らなさを羞じていた。とは言え、他の二人は人間ではないため、どれだけ頑張っても匹敵することができない。
「ぐぬぬ」
オドラデクは歯軋りをしていた。と言うことはフランツを守りたいという気持ちは持ってくれているようだ。
フランツは内心で感謝するしかなかった。
「ところで、われわれは『大物』と対峙する展開になることも考えられます。――ジムプリチウスですね。どうします?」
メアリーはさも当然と言うかのように訊いた。




