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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十九話 大物(5)

「オドラデク! 出発だぞ」


 フランツが客室に入ると、オドラデクは座席にひっくり返っていた。


「ふわあ。何なんですかいきなり」


「ルナの場所がわかった」


「へえ、どこ?」


 オドラデクは面倒くさそうに言った。


「パヴィッチだ」


「ソースは?」


「霊だ」


 オドラデクは乾いた笑いを発してそっぽを向くだけだった。


「本当だぞ」


 フランツは憤った。


「どうせ、あの女の入れ知恵でしょ? 嘘八百だとはなから決まってますよ」


 オドラデクは頬を膨らませながら言った。


 霊だということには興味を持ちすらしないらしい。


「いや、この目で……この耳で聞いた」


「ふうん。幻覚を見せる方法なんていくらでもありますからね……現にルナ・ペルッツも」


 オドラデクは天井を見つめながら言った。


「いや、間違いない!」


「騙されてる状態だと、本当だと信じ込んでいるものですよ」


 オドラデクは不機嫌そうな声を上げた。


「さんざんな言われようですね」


 メアリーがドアから半身を見せた。


「クソ女、フランツさんに変なもんをみせるんじゃないですよ。ふんだ!」


 オドラデクは身を起こし、メアリーに中指を突き立てた。最近流行りの侮蔑のポーズだ。


「フランツさん、『処理』はしておきましたよ。訊き出すことはもう何もないでしょうから」


 メアリーはオドラデクには構わず、事後報告に移った。


「ああ、それでいい」


 フランツはとくに亡霊に憐れみすら持たなかった。死んでいるとは言えスワスティカはスワスティカだ。


 しかし、かつてスワスティカに協力していたストレイチー家の出身者にしては、メアリーは妙にスワスティカに思い入れがないようだ。


――『ふり』をしているだけかもしれん。


本当は亡霊たちを生かしていて、何か良からぬことに使ってくるかも知れない。


――もしそんなことをしてきたら、斬ってやる……。


 フランツは決意を固めた。


「まあ、とりあえず行き先は決まったんだからいいじゃありませんか。ゴルダヴァは大きな国です。隅から隅まで探したら一年以上かかってしまいますよ」


 メアリーは手を叩きながら言った。


「なんでぼくを付き合わせるんです」


「パヴィッチならここから二日ぐらい歩きで行ける。とりあえず一緒にいこう。ファキイルはどうだ?」


 相変わらず黙っていたファキイルは、


「フランツがそう言うなら従おう」


 と手短に答えた。


「物わかりのいい神さまですねえ。よしよし」


 メアリーは物怖じもせず、ファキイルに近付いてその頭を撫でた。


 フランツは少しひやりとした。


「我は神ではない」


 ファキイルは短く答えた。地域によっては神と呼ばれるが、本人の認識ではそうじゃないらしい」


「まあ長いこと一神教の世の中ですからね。その方が生きやすいでしょう」


 メアリーは皮肉なのか褒め言葉なのかよく分からないセリフを吐いた。


 ファキイルはもう何も言わなかった。


「オドラデク、立て」


 とりあえず安心したフランツは、オドラデクを急かした。


「めんどくさいなあ」


 オドラデクはなお渋った。


「パヴィッチに着いたら何でも好きな食事を奢ってやる」


 フランツはオドラデクの耳に囁いた。


「えええっ! 本当? ぼく、いく!」


 オドラデクはぴょんと身を起こして、フランツが瞬時に身を躱さなければ頭と頭が激突する寸前だった。

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