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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十九話 大物(4)

 客室にいたのは元スワスティカ突撃部の制服を着た――いや、顔も手も肌もないのだ。


 まったくの透明人間で、二着の服だけが宙に浮いている感じだった。


 二つの制服はフランツたちの方を向いて、鋭い、絹を裂くような叫びを一斉に放った。


「こいつらは?」


 フランツは当惑した。


「亡霊、ってやつでしょう」


 そう言ってメアリーはいきなり座席に飛び乗って天井まで駈け上がり逆さ吊りになって、小瓶に入れた液体をパラパラと降りかけた。


  透明人間たちは杭を打たれたように床に固定されて動かなくなった。


「聖水です。霊を動けなくさせる効果がありますので。私たち処刑人はこういう霊能術の初歩ぐらいは教えられているんですよ」


 メアリーはゆっくり天井から降りてきてフランツの横に立った。


 フランツも霊的な存在にはこれまで遭遇してきたことが幾たびかあったが、スワスティカの亡霊など、見たことも聞いたこともなかった。


「でも、捕らえられるのはとても程度の低い霊ばかり。この二体はろくに言葉も使えずおなじことを繰り返すばかりでした。しかも、私ちゃんが介入しても気付くことすらできない。生前の知能をほとんど残していないように思われます」


 メアリーは感慨深げに言った。


「じゃあ、なんでジムプリチウスの名前が出た」


「そうそうそこそこぉ!」


 メアリーは明るい叫びを放った。


「うるさい」


「レベルの低い霊でも、生前記憶の断片に残っていたものと感応すれば、その言葉だけは吐くことがあるかも知れない、と私は考えています」


 メアリーはフランツを無視して話を続けた。


「まだわからん」


「ジムプリチウスが近くに来たことで突撃部の亡霊が反応した。これならシュルツさんのゆるやかなお脳髄でもご理解可能ですか?」


 メアリーは小馬鹿にするかのように言った。


「ああ」


 フランツはと手も腹が立ったが押し殺し、頷いた。


「じゃあルナが今さっきハウザーを殺したというのも」


「ほんとうかも知れないし、妄想かもしれない。それははっきりしません。私はハウザーともルナ・ペルッツとも会ったことがないのですから、わかるわけもなく」


「もっと情報を引き出すことは出来ないのか?」


 フランツは焦っていた。


――ルナが、どこにいるかわかるかも知れない。


「無理でしょう。そこまでの知能は期待できませんよ」


「そこを何とか?」


「私たちは警戒されてます。たとえ知能が低くてもそういう激しい感情は残っている。難しいでしょうね」


「おいお前ら! 答えろ!」


 フランツは怒鳴った。取り乱しているのは自分でもよくわかったが、どうしてもルナの居場所をつきとめたかったのだ。


 だが、答えなかった。


「地縛霊じゃないっぽいんで無理ですよ。どっかから流れてきたんじゃないでしょうか。死んだのはさすがにどこかはわかりませんが」


メアリーは諭すように言った。


「早く! 早くルナに会わないといけないんだ!」


 フランツは叫んでいた。


「いくら感情的になっても仕方ないですよ」


「だが!」


 またフランツが叫んだその時だ。


「パヴィッチ」


 霊が声を発した。もちろん、透明なので其の口が動くところはわからない。だが、先ほどの声とすっかり同じだった。


 ルナがパヴィッチ周辺にいるという話は、メアリーから既に聞いていた。だが、確定するほどの証拠はなかったのだ。


「今すぐ行くぞ!」


 フランツは外に飛び出し、元いた部屋へと駈けた。


「やれやれ」


 後ろでため息が聞こえた。

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