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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十九話 大物(1)

――ゴルダヴァ北部キシュ駅


 列車は止まっていた。


 もう二時間、いや三時間近くだ。


 ゴルダヴァ中部の都市パヴィッチで独立軍ゲリラが兵を挙げ、戦闘が起こった。


 そのため、客の安全を守れないと考えた鉄道局は記者と止めることに決めた。


スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツは車窓から外の風景を気怠げに眺めていた。


「退屈してますね」


 前の座席に座っていた。処刑人の一族メアリー・ストレイチーが言った。


「だからどうした。待つしかない」


「待つ以外の方法もありますよ。抜け出して歩いていくんです」


「時間が掛かるだろう」


「一日でいけますよ。努力すればね」


 メアリーは顔を歪めた。明るい方向へ。


「そりゃ名案……って、ふざけんじゃないですよ! ぼくは一歩たりとも歩きたくないですからね。ふんだ!」


 オドラデクはふてぶてしく足を組んで抵抗した。


「じゃあ、あなたは置いていきましょう。フランツさんとファキイルさんと私ちゃんがいればまあ戦力にはなりますので」


「はぁ? 何でぼくだけ置いていかれないと行けないんですかぁ?」


「行きたくないって言ったのはあなたでしょう?」


「喧嘩は止めろ」


 フランツは静かに言った。


「はぁ? ぼくは喧嘩なんてしてませんよ! この女が勝手にからんできたんです! ほんとクッソムカツクアマですねえ!」


 オドラデクの口調はとても悪いものに変わっている。


「なら、フランツさんが決めましょうよ」


 メアリーは話を振ってくる。


「そうだな……もうしばらく待って復旧する予定がないなら、歩いていくことにしよう」


 フランツの現在の旅の目的は綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツだ。


――会って、問い質さなければ。


 かつてビビッシェ・ベーハイムという個人を称して、スワスティカ親衛部特種工作部隊『火葬人』に所属し、多くのシエラフィータ族の虐殺に手を貸していたという疑いがルナには浮上していた。


――問い質し、答えを吐かせる。


 それがフランツの最優先の目標なのだった。


 ならばできるだけ早く成し遂げられる方がいい。


 本当は今すぐにでも飛び出したいのだが、メアリーの言う通りは癪だし、とりあえず一行のリーダーとしての格が落ちる気がする。 また、オドラデクの不満を募らせるのも良くないだろう。今は『薔薇王』という剣があるとは言え、オドラデクも剣として使える存在だし、連携がとれなくなる心配がある。


 既に一行は四人だ。これだけいれば喧嘩もあるし、なかなか大変だ。


 だが、ある程度頭数を揃えていかなければ、ルナに勝てはしない。


 確かに犬狼神ファキイルは強い。だがフランツの思うとおりに動いてくれるとは限らないし、ルナの幻想を実体化できる能力を前にして無力化されてしまうかもしれない。


――一時間ぐらいは様子見といくか。


どこか心の奥底には怖じる気持ちがあって、ルナと顔合わせを避けたいと思っているのではまいか?


 フランツは頭を振った。


「……私としてはいつでも準備は出来ているんですけどね」


 メアリーは両指の爪へと視線を落としながら言った。


「列車内でも何か情報が得られるかも知れない。少し、探しにいこう」


 フランツは立ち上がり、廊下へと出た。


 ファキイルは相変わらず坐ってじっとしており、何も言わず視線すらも送って寄越さない。

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