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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十七話 吸血鬼(16)

「ハロスは自力で何とかするでしょう。でも、お望みなら引きさがりますよ」


 そう冷たく言い放つとダーヴェルは振り返り、静かに歩み去っていった。


 人々は恐れを成して道を開ける。まるで海が開けたようだった。


――やけに素直だな。


 ズデンカは不安に感じた。だが、観察した限りのダーヴェルは騙すような性格ではないとも思われた。


「さあ、皆を連れていくぞ」


 ズデンカはルナに呼びかけた。


「はいは~い」


 ルナはフワフワと歩きながらズデンカに吐いてきた。


 ズデンカは後ろに続くたくさんの人々――おそらく数千人はいるだろう――に南下していくように指令を下した。


 指令を下す――ズデンカには馴れない行為だ。ずっと一人で生きてきて、ルナと出会った後も二人旅だったのに。


「ズデンカぁ」


 ジナイーダはズデンカの腕に縋り付いてきた。それを押し抜けることもせず、ズデンカは進んだ。


「ほんとに今まで大変だったねえ、ズデンカぁ。いろいろ話してよ。何でも聞いてあげるから!」


「ああ……」


 ズデンカは本当はルナと話したかった。


 長い苦しみのトンネルから抜けて、ルナは少し楽になったのだ。


 しかし。


 過去に犯した行為は決して消えはしない。


 ルナは償っていかなければならないのだ。スワスティカ猟人ハンターの連中とぶつかることもありえるだろう。


――ルナの償いはあたしが代わりにだってしてやる。


 ズデンカは思った。後ろの連中が事故を起こさないよう注意を怠らず歩きながら、考えなければならないので大変だった。


 本音を言えば、ルナの償いを代われるとは思えないし、余計なお世話と思われるかも知れないのだ。


 ルナに実際に問い質して、違った答えを受けてしまうことが怖かった。


 幾ら身体は丈夫でも、ズデンカは自分の心には脆いところがあるのだとついさっき気付いた。


 遅すぎる気付きだった。


「ルナ」


 ズデンカは声を掛けた。


「なに? ……ふう」


 ルナは煙を吐いた。


「あたしがいない間、怪我とか何もなかったか?」


「君はわたしのお母さんか」


 ルナは決まり文句を呟いた。


「いや、そうじゃねえけどよ」


「ふふふ。でも君がすぐ戻ってきてよかったよ。わたし独りじゃ、誰かが襲ってきたら十分には戦えないから」


「お前だけでも大丈夫だろ」


 ズデンカは心とは反対のことを言った。


「そうではないよ。君がいないと、自分が半分になったような気がするんだ」


 ルナは普通な感じで言ってのけたが、その言葉にズデンカはかなり動揺した。


 まるで愛の告白のようだ。だが、ルナがそんなつもりで言った訳ではないと、ズデンカは考え直した。


――あたしの勘違いだ。


 ズデンカは打ち消した。ルナが自分を求めてくれてると考えるのは、あまりにも思い上がりだ。


「……まあ無事で良かった、お前が」


 ズデンカは言った。


 ルナはもう何も言わなかった。


「ズデンカさん、本当にあの吸血鬼は、何も言わずに人々を解放してくれたんですか?」


 突然カミーユが足を速めて近付いて来て、ズデンカの耳元に話し掛けた。


とても不安そうな声だ。


「ああ、あまりもめずに解放してくれた」


 ズデンカは嘘を吐いた。『ラ・グズラ』に加盟した、などと説明できなかった。


 まるで自分が裏切り者だと言っているようなものではないか。

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