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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十七話 吸血鬼(15)

「どうしたの、君?」


 ルナがとても不思議そうに首を傾げた。


「いや、何でもない」


 あまり流さない涙が見られたのかとズデンカは恥ずかしくなった。


「泣いてるの? もしかして……」


 ルナがいつも通り悪戯っぽい表情を浮かべた。


「そんなんじゃねえよ」


「ふふ」


 ルナは微笑んだ。また手に握ったパイプからは煙が棚引いている。


「煙草はほどほぼにしとけよ」


「やーだよ。長いこと我慢させられてたんだ。ニコチンをたっぷり摂取したら頭もまわるようになったよ」


「こんなんだからヤニカスと揶揄られるんだ」


 ズデンカはジナイーダの方を見た。


 ジナイーダも笑顔で返し、


「そうだよ。煙もうもうで咳がでた! ズデンカぁ、二人だけであっちへいこ!」


 と抱き付いてきた。


 ズデンカはそうもいかないので迷ってしまう。


「人間の方ですね……えーと名前は失礼」


 ダーヴェルは訊いた。あくまで人間を食い物としか見ない吸血鬼にとっては、その一つ一つの個体の名前を覚えるなど、面倒くさい行動にしか過ぎないのだろう。


――それでも覚えられるハウザーはよっぽどだな。


 鼠の三賢者を自分の心臓代わりに使っていたカスパー・ハウザーは、どこか普通の人間とは掛け離れた雰囲気を醸し出していたのかもしれない。


「ルナ・ペルッツです。あなたとは以前お会いしていますよ」


 ルナは煙を吸い込みながら言った。


「そうですか。私はオーガスタス・ダーヴェル。改めてお見知りおきのほどを」


 ダーヴェルは会釈した。かつてダーヴェルはルナたちをハープの音で誘き出し血を吸おうとしたことがある。


 しかも、上手くいかないからとハープの演奏者を殺害してしまった。


 ダーヴェルはそんな過去をすっかり忘れて暢気に挨拶しているのだ。


 実際その時ショックを受けたカミーユは蒼白になり、全身を戦慄わななかせながら遠巻きに見やっている。


 やった方は忘れていてもやられた方は決して忘れないものだ。


 いや、そうではないのかもしれない。


 ダーヴェル側も、仲間のクラリモンドをズデンカに殺されているのにいとも簡単に『ラ・グズラ』に迎え入れた。


 身内の死すら無関心。長く生きたもの之衆生なのかも知れないがズデンカはいくら生きてもそんな風にはなりたくないと思った。


 さすがにダーヴェルはズデンカの『ラ・グズラ』加盟については何も言わなかった。


 あとは適当に嘘を吐いてくれとばかりに、口を噤んで後ろに引き下がった。


 ズデンカも助かった。ルナに言ったところで、別に関心は持たれないかも知れないが、それと引き換えに人命を助けるようにしたなど恥ずかしくて言えない。


「ズデンカさん! 何も危害は加えられていませんか!」


 ヴィトルドは殺気からずっとダーヴェルを睨み付けていた。


「話をして、人間は解放して貰えるようになった。だから大丈夫だ」


 ズデンカはヴィトルドのみならず全員に話しかけるように言った。


「そうか。それは良かった」


 ルナはまた微笑んだ。


「とりあえず、後ろに続いている人間たちを安全な場所まで送り届ける。詳しい話はそれからだ。それにダーヴェル」


 ズデンカは振り返った。


「戻ってくれないか。お前の存在は必要以上に人間みんなを怯えさせる。ハロスもあのままの状態にして置くのはかわいそうだ。助けにいけよ」

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