表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

722/1240

第六十七話 吸血鬼(1)

――ゴルダヴァ中部都市パヴィッチ



「そう言えば」

 

 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツは何か思い付いたように立ち止まった。


「なんだよ?」


 ルナのメイド兼従者兼馭者であるが今は歩きの吸血鬼ヴルダラクズデンカは、迷惑そうにそれを見た。


 一行は急いでいる途中だ。北部の方で吸血鬼の集団『ラ・グズラ』の襲来が始まっているのだ。


「君、それずっと握ったままだよ」


「うげ」


 ズデンカは右手を見た。白いぶよぶよとした塊が握られている。


 鼠の三賢者カスパールだという。


 さきほどルナたちは元スワスティカの親衛部長カスパー・ハウザーを殺した。

 ハウザーは名前の同じカスパールを心臓代わりに使うことでさまざまな殺戮行為をしてきた。


 ズデンカは己の力でそれをハウザーのなかからえぐり出した。勝利に酔いしれる暇もなく、それをその後もずっと握り締めたままだったのだ。


――薄気味悪い物体だ。


 とは言え道に投げ出す訳にもいかず、ズデンカは途方に暮れた。


 周りに聞こえるとまずいのでズデンカは一行から少しだけ先に進み、


「おいメルキオール訊いてるだろ?」


 と言った。


『はいはい』


 メルキオールはルナの手を握っていないのに、ズデンカの頭に直接語り掛けてきた。


『どうやった? どうやってあたしの頭のなかに入り込んできた』


『今僕はカスパールのなかに入っているんです。なんとか蘇生させられないものかとね』


 バルタザールはふざけた口調で言った。


『ずいぶん器用な芸当が出来るな』


『ダテに数千年生きていないですよ』


 鼠の三賢者はかなり大昔から存在し、その子孫が鼠の獣人になったと言われる。


 数世紀のあいだ謎の巨島パンデモニアとして海に浮かんでいたというぶっ飛んだ経歴を語ってもいた。バルタザールはともかく得体の知れない存在なのだ。


『ともかく、こんなものをずっと持っていたくはない。どこかにしまいたいんだが』


 ズデンカははた迷惑に感じた。立ち止まっていると怪しまれるので、前へ前へ歩き続ける。


『でも、今後も僕の指示がないと困るでしょう?』


『困らん』


 ズデンカは一言で斬り捨てた。


『じゃあその背中のふくろの中にでも』


 戦いの間は置いていたが、今は背負っている嚢には大悪魔のモラクスが入っていた。


『いかん。先客がいる』


 ズデンカは断った。


『いえ、むしろその先客こそが良いんです。悪魔の力を利用してカスパールを蘇生させ、僕自身の肉体も復元できないかと考えているのです』


『面白そうだね!』


 ルナも二人の会話が聞こえるらしい。


『ルナさんもああ言ってるのでぜひぜひ』


 バルタザールは急かしてくる。


 ズデンカは一旦考えた。今の状態はバルタザールに訊かれているのであまり良くはないが、それでも遠く離れたルナと行進できるのは有利だ。


 ルナは放って置くとどこへ行くかわからない。なら、話が出来た方が楽だ。


 もしも電話が携帯できるようになれば、そんな心配はいらないのだろうが、そこまで科学技術が進む前にルナの寿命は尽きてしまうだろう。


 カスパールを嚢のなかに突っ込んだらそれが途切れてしまう。


――うーむ、困った。


『ズデンカさん、今の状態なら考えてることダダ漏れですよ』


 バルタザールは言った。


『ふふ、わたしにもだよ』


  ルナの笑い声も聞こえた。


 ズデンカは恥ずかしくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ