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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十六話 名づけえぬもの(33)

「勝手にルナを巻き込むな。誰がお前のゲームになんぞに乗るか!」


 ズデンカは言った。


 せっかくルナは過去のしがらみから解放されたのに、また新手の変人に目を付けられたのだ。


「俺は嘘は吐かない! 必ずゲームは行われる!」


 ジムプリチウスは断言した。


 ハウザーとは明らかに雰囲気が違う。だが、あきらかによりやっかいなやつだとズデンカは思った。ハウザーはあっさりとしていた、いやあっさりとした態度に隠した仄暗い


「うーん、まあ断っても巻き込んでくるんだから仕方ない。受けますよ。わたしはあなたにゲームで勝たせて頂きます」


 ルナはため息を吐いた。


「おい、ルナ!」


 ズデンカは怒った。


「仕方ないよ。こういう輩は言っても聞かないんだ。よくわかってる。大丈夫。わたしには力がある。なんとか撃退してみせるよ」


 ルナは言った。


「……」


 それでもズデンカが抱いて嫌な予感は増大していく一方だった。


「それじゃあさらばだー!」


 途端にジムプリチウスの半身が溶け消えていく。


「ゲームをするんじゃないのか」


「今日は顔見せだけだ。これからまるまる一年、楽しんでくれ……覚えとけよ、ゲームはもう始まってるんだぜ?」


 そう言ってジムプリチウスは消えた。


「はあ」


 ズデンカにもため息が伝染うつった。これからまた戦いは続くのだ。


 気楽に綺譚をあつめられるならどれほどいいか。


 それでもやはりルナはやはり旅に出るのだろう。


 ルナにとって旅は人生も同然なのだから。


「さあ、北部に行こう。君の方の決着も付けなきゃならないだろ?」


 ルナは穏やかにズデンカを見やって言った。


 そうだった。


 吸血鬼の秘密結社『ラ・グズラ』は多く人の血を欲しがっている。


 ハウザーと共闘したのもそのためなのだ。北部に逃げた人々を襲い始めているに違いない。


――多くは助からねえかも知れねえが。


 人命を救う余裕も義務もない。


 だが、『ラ・グズラ』がパヴィッチにやってきたのはズデンカも無関係ではないのだ。


 ズデンカは急いで歩き始めた。


 ルナも早足で尾いてきた。自分に合わせてくれているのかと思うとズデンカは嬉しくなってきた。


バリアは張っとけよ。またいつどこで襲われるかしれねえ」


「もちろんちゃんとやってるさ。とっておきのやつをね」


 ルナは笑った。もう、すっかり元通りのルナだ。


 ズデンカは安心した。


「ズデンカさん、だったよね? お連れ二人を連れてきたよ。かなり怯えてるみたいだね。無理もない」


 バルトロメウスの後ろにはカミーユとジナイーダが控えていた。


 二人とも顔色は良くない。


「本当は行くべきだったのかもしれませんが……何かよくない感じがして……すみません」


 カミーユは謝った。やはりカミーユもヴィトルドやバルトロメウスのようにハウザーから発される禍々しい威圧感で動けなくなっていたのだろう。


「いや、その予感は正しかった。動かないでいてくれた方がよかったんだ。――ついに倒したぞ。あたしとルナはハウザーを倒したんだ!」


 ズデンカは言った。ジムプリチウスのことについては教えなかった。二人を一層不安がらせると思ったからだ。


「本当ですか! 凄いですね」


「これから北に向かう。吸血鬼の集団がまだ残ってるから」


 ルナは告げた。


「はい、ご一緒に行きましょう!」


「ズデンカ!」


 ジナイーダは物も言わずズデンカを抱きしめた。


「ああ、これからは一緒だ。でも決して前に出るなよ。ルナの後ろにいろ」


 ズデンカは言った。


「ズデンカじゃないと嫌!」


 ジナイーダはズデンカのメイド服の前掛けに頬を擦り付けた。 


「じゃあ、あたしの後ろでもいい。いつでも怖くなったら逃げろよ」


 集まった六名は北へと足を向けた。


 ズデンカの心の中にはジムプリチウスの歪んだ笑みがまだなかなか消えなかった。


――何とかしてやる。


 ズデンカは心の裡で小さく呟いた。




『鐘楼の悪魔』編    完

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