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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第六十六話 名づけえぬもの(27)

「消すだと? ふざけるな! 俺はこれから『名づけえぬもの』になって、トルタニア全土を滅ぼすのだ!」


 ハウザーが応じた。


「わたしは出来る……わたしというか――バルタザールが!」


 ルナは叫んだ。


「バルタザール?」


 ハウザーは驚愕の表情を浮かべた。


「そうだ。あなたが心臓代わりに使っている――カスパールを取り出す!」


 ルナは進んでいった。


 一直線に。


 もう、ズデンカもそれを止めようとはしなかった。


「ははっ、そんなこと出来るものか! 俺の心臓はこの厚い皮の下に隠れているのだぞ!」


 ハウザーは答えた。


「そんなもの」


 ルナは穏やかに言った。


 ルナが差し出す掌から鋭い光線が発された。


 光は、ハウザーの胸を貫き通す。


「うっ!」


 ハウザーは顔を顰めた。両腕で胸を隠して光を防ごうとする。


 しかし。


 ルナの放つ光は強烈だった。分厚い腕すら貫通して、ハウザーの心臓を狙って当たり続ける。


 ハウザーの肉体が突如膨張し始めた。少しでも光を浴びないようにしようとしているのだろう。


「あれは何なんだ?」


 バルトロメウスは首を傾げていた。


「鼠の三賢者カスパールはあいつ――ハウザーの心臓代わりになっているという話だ。同じく三賢者のバルタザールの力を使って、ルナはその心臓を取りだしハウザーを殺そうとしているのだろう」


 ズデンカは説明した。して相手が理解できるかどうかはわからなかったが。


ハウザーが『名づけえぬもの』へと完全に変化しきるまでに倒さなければならない。


「へえ、面白い。あいつはトルタニア全土を滅ぼすとか大層なこと言っていたな。そりゃ絶対に阻止したいよ」


 バルトロメウスは腕組みをした。


 よくわからないながらに理解したようだった。


「だな」


 ズデンカも同意した。


 実際、ハウザーはもうどう考えても負けそうだ。ルナとバルタザールによって、倒されようとしている。


 いままでの長い戦いから解放されるのではないかという希望が生まれてきていた。


と。


「ハハハハハハハハハハハッ!」


 ハウザーが高笑いを始めた。


「遅かったなルナ・ペルッツ! 時間が来たようだ!」


 叫んだその顔が胴体の奥にめり込み、姿を消した。


 ハウザーの肋骨が解体され、光線の的から完全に外れた。


 手脚も奥にめり込み、ただぶよぶよとした巨大な塊になった。


 それが、パカリと二つにわかれる。


 中から巨大なはねを持つ、蛾が姿を現した。


 禍々しいぐらい真っ白な毛並みにおおわれた。東洋から来たいう飛べない蛾

――蚕にも少し似ているように思われた。


 これまで人々を動物や昆虫の姿に変えてきた『鐘楼の悪魔』。


 その集大成に思われた。


「あれが……『名づけえぬもの』か」


――ハウザーはルナをあんなもんに変えようとしていたのだ。


 そう考えるだけでズデンカは腹が立って仕方なかった。


 粘膜に蔽われていた翅はゆっくりと開き始める。


 ズデンカは確信した。


 あの翅が完全に開ききり、羽ばたいた瞬間に風に乗って鱗粉が世界中へ広がっていき、『鐘楼の悪魔』が世界各地に拡散される。


ハウザーの野望はとうとう達成されるのだ。

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