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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第七話 美男薄情(2)

 一週間ぶりに歩くエルキュールの街路をルナはフラフラしていた。


 ズデンカは肩を貸して寄り添った。


「大丈夫。すぐに慣れるから。杖持ってくれば良かった」


 ルナは忘れ物をしやすい。ズデンカはあまり持っていくなといつも注意しているのだった。


 たくさんの人が道を歩いている。


 このあたりは百五十年前トゥールーズ共和国が国王を処刑した広場に近いので、革命レボリュシオン通りと呼ばれている。


 エルキュール一、人が多く集まる場所と言っても過言ではなかった。


「前はちゃんと観察出来ていなかったけど面白いなあ。色んな人間がいる」


 ルナはモノクルをハンカチで拭きながら辺りを見回して言った。


「趣味が人間観察とかダサいやつのすることだから止めとけ」 


 ズデンカは釘を刺した。


「実際楽しいんだもん、仕方ないじゃないか」


 ルナはほんわかと笑った。


「こんにちはー」


 一人の男がそこに声をかけてきた。


 鼻筋が通って、なかなかの美男だった。白いシャツの襟を着崩してはいるのものの、身ぎれいにしている。ズデンカは長い人生で何度も見かけたタイプの顔ではあったが。


 ――女を弄ぶことを何とも思っていない風の。


「ただのナンパだ。無視しろ」


 とルナに囁き掛けようとしたら、


「やあこんにちはー!」


 ルナは朗らかに挨拶していた。


「おい!」

「元気良いね! 名前は? 俺はアルチュール」


「ルナ・ペルッツと言います」

「へえ、ルナちゃん。どっかで聞いたことあるなあ」


 アルチュールはわざとらしく首を捻った。


「まあ、知ってる人は知ってるかもしれませんね」


「それって凄いじゃん。今日は何してるの?」


 なかなかテンポ良くアルチュールは話し掛けてくる。


「ぼんやりと散歩ですよ」


「へえ、じゃあ一緒にお茶でも飲む?」


「いいけどメイドも同伴でね」

「そっちの子は名前なんて言うの?」


「ズデンカ」


 ルナがなぜか自分の名前を滅多に呼ばないことを知っているズデンカは仕方なく答えた。


 「さあさあ、一緒にいこう」


 少し古風な感じがする内装カフェへ三人は入店した。


 ニスを塗った樫の木のテーブルを前に皆で腰を下ろす。


 注文されたコーヒーが二つ並んでいる。


 ズデンカはイライラしていた。


「ルナちゃんはどこからきたの?」

「オルランド公国ですよ」


「俺も行ったことあるよ。三年ぐらい前かな。そこでも女を口説いてたけどね」


 自信満々にアルチュールは語った。


「おモテになるんですね」


 ルナはパイプを取り出した。


「まあね」


 アルチュールは仄めかすように言った。


「そうやって、いつも女に声かけてるんだろ?」


 ズデンカはテーブルに手を付いて身を乗り出した。


「ズデンカちゃんは怒りっぽいなあ。うん、まあ確かにその通りだけどね」


 アルチュールは笑った。


「なるほど、うまく女性を引っ掛けられるなんて素晴らしいですね。上達するコツは?」


 ルナは訊いた。


「そりゃ、声をかけ続けるだけさ。一人や二人で諦めてはダメだね。百人、千人いやもっとたくさんの女に声かけ続けないと」


 アルチュールは滔々と述べた。


「ナンパがお好きなんですね」


 ルナは言った。


「うん。数え切れないぐらいやってるなあ」

「お独りで?」


「仲間と連れ立ってやることもあるよ。これからやってみたいって思ってる若いやつに教えてあげたりね。いつしか小さな集まりみたいなものもできてくるんだよ」


 アルチュールは自信満々に語った。


「集まりですか」


「うん、ナンパをやりたがる男たちの集まりだな。女に酒を飲ませて酔っ払わせる見たいなことをやる奴らもいたよ。もちろん俺はやらないけどね」

「切磋琢磨というやつですね」


「うん。ナンパを繰り返す中で磨かれるものもあるからね」

「やる気を維持するのは大変ではないでしょうか?」


「遊びの要素を入れりゃいいのさ」


 アルチュールはコーヒーを飲んだ。


「遊びですか」


「例えば女に等級をつけたりね。一から十まで、とか」

「面白い」


 ルナはパイプを置いた。 


「じゃあ、例えばわたしならどれぐらいの等級になりますか?」


 と自分を指差す。

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