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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十六話 杉の柩(7)

「そうですよ。フランツさぁん! あのメイドは強いですよ。各地で戦った形跡があり、圧勝してます」


 オドラデクが口を挟んできた。


「俺はこれまでどんなやつだって殺してきた。必要ならば吸血鬼も殺す」


 フランツは言い張った。


「殺せないんですってば。身体をバラバラにしてもすぐに再生していますよ。それも凄く速く」


 いつの間に仕入れたのか、オドラデクの知識は豊富だった。


「ならどこかに閉じ込めるか。どちらにしろ、ルナと話さなければならない」


 話して、もし、違うようだったら矛を収めるつもりだった。


 フランツもすぐにルナを殺すと決断できるわけがない。そもそも、特殊な力を持っているルナ相手に戦えるのかもわからなかった。


 ルナがベーハイムだとするなら、殺さなければならない。イホツクが言うような捕縛という選択肢はなかった。


 裁判にはとても長い時間が掛かる。とてもフランツはそれまで待っていられないだろう。


 猟人ハンターには抵抗者の殺害が許されている。


 ルナが逆らってくる来ないにかかわらず、ベーハイムならば殺害以外の道はない。


 だが、フランツはまだどこかで殺したくないという思いを抑えきれなかった。


 ルナともう一度会いたい。


 心のどこかでそう願っていた。


 だが、次に会うときは殺し合いかもしれないのだ。


 それはフランツが選んだ道だ。仕方がなかった。


「どうする?」


 イホツクが訊いてきた。急かすように。


「今日のうちにも旅立ちます」


 フランツは言った。


「なら、さっさと仕度しな」


 イホツクが笑いながら言った。


「失礼します」


 フランツは後ろを向いた。


「まあ待て、これはベーハイムとルナ・ペルッツに関する書類の写しだ」


 と、追い付いてきてきたイホツクから茶色の封筒に入った書類を手渡された。


「ありがとうございます」


 フランツはそれを受け取り、また後ろを向いて歩き出した。


「フランツ」


 ファキイルだった。


「すまんな。いかねばならない用事が出来た」


 フランツは呟いた。


「フランツは疲れている」


 いつもならそれで諦めそうなファキイルが特別強く言ってきた。


「ああ、だが俺は先に進まねば」


 そう思って足を前に繰り出した時。


 大きく身体が揺らいだ。


 クラクラ、クラクラ。


 地面も一緒に回っている。


 眼の前が、暗くなっていく。瞼が重くなっていっている。


「フランツ……フランツ……」


 声が何度も聞こえる。


 フランツは目を閉じた。

 


「フランツ」


 声が聞こえる。どこかで訊いた声だ。


「フランツ」


 フランツは目を開いた。


 ルナが立っていた。


 フランツも立っていた。


 いつの間にかあの、昔暮らしていたホテルの部屋に戻っていたのだった。


「フランツ、どうしたの?」


 ルナが首を傾げていた。


  フランツはまっすぐその目を見ることが出来なかった。

 

「何でもない……ただちょっと、夢を見ていただけだ」


「立ったまま夢を見るのかい? それは興味深いね。詳しく教えてくれない?」


 ルナはいつも通り好奇心の塊だ。


「何と言うか……未来の夢だ。俺はルナを殺さねばならないという夢を見た」


 フランツは静かに言った。


「へえ……それは、こんな風に?」


 その言葉とともに、ルナの唇から赤黒い血の塊がこぼれた。

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