表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

562/1243

第五十四話 裏切り者(4)

 ちょっと前ズデンカは砂漠を渡る隊商の話を訊いたことがあった――その願いの対価として、カミーユが旅に同伴することになったのだ。


 まるで今は月下の隊商だ。砂漠ではなく、平原と山地の間を縫っているのだが。


 月の光のシャワーを浴びて、マレーナの黒髪も、ズデンカの黒髪も、穏やかに輝いた。


「人生なんて終わりのない脱走みたいなもんだろ」


 ズデンカは言った。


「ふっふー。哲学的だね。ズデンカさんは」


「そうか?」


 ここで上手く相手に乗せられてはいけない。それはリンド族の口車なのだから。


「だって、そんな風に考えたこともなかったよ」


「長く生きていれば考えもするさ」


「え? ズデンカさん私より年下でしょ?」


「そうだったな」


また無言になってズデンカは歩き続けた。


――どこまで行くと言うのだ。


 首を傾げているマレーナは馬鹿なふりをしているが頭が回るだろう。


 どこかズデンカの持つ妖しげな雰囲気を感じ取ったかも知れない。


――だからどうした。


 山道の移動はズデンカにとってはむしろ楽だった。かなり遅れたマレーナが後ろの方に下がったからだ。


 だが、前の連中も難航しているらしく、ズデンカの方が追い付いてしまった始末だ。


「あんた、なんでそんなに登れるんさ」


 アグネスが訊いてきた。


「運動の成果だ」


 ズデンカはシンプルに答える。


「運動でそんなに筋肉がつくかねえ? あたしも色んなところ脚で旅してきたけど。年のせいかへとへとだよ。はあ」


 アグネスは荒く息を吐いた。


 ズデンカは無視した。


 先を行く他の娘たちもみんな難渋しているようだ。


 頭巾を被っているので皆同じ格好だがズデンカはマレーナが指した娘――メイベルをちゃんと覚えていた。


 だがとくに話し掛けるでもなくズデンカが通り過ぎようとしたとき、


「この中に裏切り者がいるよ」


 と声が聞こえた。


「裏切り者だと?」


 ズデンカは思わず振り返った。


「……」


 人見知りなのか、皆黙り込む。


 一人外を決したように頭巾を脱いだ。


 赤毛の娘だった。そばかすまである。


 メイベルではなかった。


「お前の名前は?」


 ズデンカは訊いた。


「ジナイーダ」


 さっきのと同じ声が答えた。グリーンランディアの人名だった。


――本当に色んなところから集まってきてやがるな。


 ズデンカは思った。


 だが、続けざまに問う。


「裏切り者とは誰のことだ」


「知らないよ。でもいるんだ。食べ物がごっそりなくなっていたからね。手を付けるときは許可を取らなきゃだめって言う決まりがあるのに」


 ジナイーダは捲し立てた。


「へえ、それは面白いな」


ズデンカは苦笑した。


 どうも、人を騙す連中の間でも厳格な決まりがあるようだ。そうでなければ集団の統制がとれなくなり、たちまちのうちに瓦解するからだろう。


「面白くなんかないよ! 旅はまだまだ続くんだよ。何にもないなんて困る。とんでもない裏切り行為をしでかしやがって!」


ジナイーダは怒鳴った。


「アグネスがなんか籠を持っているじゃねえか。あそこに食い物はねえのか?」


 ズデンカは指差した。前は気に留めもしなかったがその右手には大きめの籠が入っていた。


「あれは……」


 ジナイーダは口籠もる。きっとあそこには毒薬や人を騙くらかす数多くの道具が入っているのだろう。


「盗まれたのなら、犯人を見付けなきゃいけないな」


 ジナイーダに助け船を出すつもりはないが、ズデンカは話を続けた。


「だから、それを今訊こうとしてたところであんたが来て」


「あんたじゃねえズデンカだ。さっき紹介してただろうが」


 ズデンカは睨んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ