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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十四話 裏切り者(1)

――ゴルダヴァ南部某所


 見渡すばかり満天の星空。


 その光によって昼と言えば大袈裟だが、街灯の下に立つときぐらいには明るくなっている。


 野宿する破目になった綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツは草叢に広げられた毛布に横たわり、懐に隠していた望遠鏡を取り出して、自分の名前の由来ともなった月をじっくりと観察していた。


「ずいぶんご執心のようだな」


 声すら上げないルナを見て、メイド兼従者兼馭者だが今は馬車に乗っていない吸血鬼ヴルダラクズデンカはからかってやりたくなった。


「うん。だってこんな綺麗に星が見れる場所なんて珍しいし」


 ルナは素直に応じた。


「ああ、そうかい」


 ズデンカは毒気を抜かれたかたちとなった。


「ふふふふふ」


 ナイフ投げのカミーユはその様子を見てニマニマと笑っていた。


「カミーユ、お前はそれを見てるだけでいいのか」


「いいですよ。ルナさんやズデンカさんとお喋りするだけで楽しいです」


 夏真っ盛りとは言え、夜になるとだんだん寒さが忍び寄ってくる。


 鈍感なズデンカは気にならないが、ルナやカミーユは違うだろう。


「お前ら、寒くないか」


「ううん、暑いぐらいだよ」


 ルナは言った。


「だいじょーぶです!」


 カミーユもおちゃらけて答える。


 ズデンカはそれでも気を抜かなかった。


 ルナたちは追われる立場だ。スワスティカの残党連は先日撃退したが、吸血鬼の組織『ラ・グズラ』はまだ攻撃してくるかも知れない。


 そしてズデンカたちはそれに対して対抗する術を持たないのだ。


 もっとも連中の目的はルナではなくズデンカ当人だ。つまり、ルナたちと別れれば危険が及ぶ心配はなくなるはずだ。


――離れるべきだろうか。


 ズデンカは葛藤していた。


 だが、自分がいなくなればルナの生活は今より滅茶苦茶になるだろう。


 そろそろ誕生日を迎えるルナは二十七歳になる。


 人間なら、健康面でも変化が訪れてくる年齢だろう。これまでのような生活でやっていけるのか不安点があまりにも多すぎた。


 もっともズデンカはずっと吸血鬼の身体で暮らしてきたので、人間の変化について間近で見たり本で読んだりした以上の知識はなかったが。


――離れられるわけがないだろうがよ。


 自分で放った問いを自分で打ち消す。なら、絶えず戦い続けるしかない。守り続けるしかない。


 この旅に終わりはないのだ。


「ふむふむ。他の星もいいね。星座事典、持ってくるんだった」


「私にも見せてくださいよ! ルナさんなら全部頭の中に入れてるでしょ!」


「さすがにわたしもそこまで記憶力はないよー! まあわかるのもあるけど」


 ズデンカを置いて二人はじゃれ合っている。


  寂しい気持ちでズデンカはそれを眺めた。

 

 遠く、山の狭間。


 灯りが、ぽつりぽつりと。


――誰か、近付いている。


 ズデンカは察知した。とは言え、それは吸血鬼ではないはずだ。


 吸血鬼は夜目が利く。昼以上に自在にあたりを眺め回せるのだ。


――人だとしても脅威である可能性がある。


 ズデンカは立ち上がった。


「近付いてくる奴がいる。見てくるぞ」

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