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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十二話 ひとさらい(9)

「何いきなり血迷ったこと言い出すんだよ」


 ルナは常日頃からイカれたことを言い出すのが得意だが、ここまで滅茶苦茶な発言をするとは信じられなかった。


「とりあえず、ここを去ろう」


 ルナは外へ歩き出した。ドラガは見送りもせず呆然と立ったままだった。


 ズデンカもカミーユも尾いていく。


 だいぶ進んだ。家がかなり離れたところになって、ズデンカが口火を切った。


「理由は何だ」


「なんでもないよ」


 ルナは頑なだ。


「アホか。理由がなければお前の態度の変わりよう、意味がわからないだろうがよ」


「別にたいしたことではないさ。不意に思い付いただけで」


 ルナは頭を垂れている。


「……」


 ズデンカも黙った。


 何かある。


 何かは、あるはずだ。


 ズデンカは考えた。考えに考えた。


「……わかった」


「なんだよ」


 ルナはちょっと首を上げた。


「嫉妬だ。やきもちだ」


「はい?」


 ルナは首を傾げた。


「さっき、カミーユはお前に嫉妬した。だが、お前もカミーユに嫉妬したんだ」


「わたしは嫉妬なんかしないさ」


 ルナは鼻で笑おうとした。だが、笑えていない。


「理由はなんとなく想像はつく。ルナ、お前には母親がいない。カミーユもそうだが、あの時は娘代わりにアナを受け止めてやってたよな。その光景を見たルナはやきもちを焼いたんだ。そうに違いない」


 鮮やかにズデンカは推理した。


「そっ、そんな! 娘代わりになんかなってないですよ!」


 カミーユは焦った。


「そうだよ、べつに焼き餅なんて焼いてないったら! ポカポカ!」


 ルナはまた顔を伏せながら、ズデンカのお腹を乱打した。


 もちろん、ズデンカはちっとも痛くないが。


 そして、ルナの顔がわずかに赤くなっていることに気付いた。


 恥ずかしいのだ。


  ズデンカはしてやったりとでも言ったような気分になった。


「もう帰りましょう。今日はなんか疲れました」


 カミーユの方は呆れ果てているようだった。


 今度はズデンカが恥ずかしくなる番だった。


 三人はそれぞれに落ち込んでとぼとぼと歩きながら宿を探した。


 だが、なかなか見つかりそうもない。ほとんど人がやってない村で、宿屋など経営しているお人好しはいないのだ。


「ドラガさんに頼ればよかったのに」


 ルナが文句を言い出した。


「アホか。そう言う訳にもいかねえだろ」


「野宿でも良いですよ。私、したことあるんです!」


 カミーユが自慢げに言った。


「えー、野宿!」


 ルナはあからさまに不満そうな声を上げた。

野宿には慣れていないのだ。何時も高い金を払って良いホテルに泊まっているのだから。


「仕方ねえ」


 ズデンカは街の門の外へ歩き出した。


「ええー、草とか首に入ってちくちく刺してきて、すんごく寝苦しくなるよ」


 ルナは移動するのを渋っている。


「とりあえず、毛布類とかは持ってきてる。後は開けた場所で寝りゃいいだろ」


 と呼びかけながらズデンカはルナの相手が面倒臭くなってきていた。


「星が見えますよ! 綺麗ですよ! ルナさんの名前の由来になった月だって!」


 カミーユは野宿に離れているらしい。さすが旅回りのサーカス団員だ。


「うーん、それなら、ちょっと気になるかなぁ」


 ルナが乗り気になったところで、カミーユはその手を握って歩き出す。


――あいつもすっかり成長したな。


 振り返ってそれを見ながら、ズデンカはしみじみと感じ入るのだった。

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