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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十二話 ひとさらい(8)

「でも、取り敢えず動機――殺害理由を訊いてみたいかな。あなたはなぜ、アナさんを殺したのか? 普通に暮らしていれば、何も問題なかったはずでしょう?」


「ドゥブラヴカは……あの娘に……アナに文字を読ませようとしたのです。だから……学校に……私たち二人は読めないのに」


 訥々とドラガは語った。


――なるほど、文盲だったか。なら、ルナの本は読んだことはないな。


 ズデンカは考えた。


「文字が読めたら、何か問題があるんですか?」


「読まれてしまったら困るの」


 そう言ってドラガは黙った。


「何を?」


 ルナは訊いた。


 ドラガは答えたくないようだった。


「仕方ないなぁ。またアナさんを呼び出そうかなぁ……」


 ルナは首を人形のように左右に振りながら言った。


「やめて、それだけはやめて!」


 ドラガは叫んだ。


「おい、ふざけるのはよせよ」


 ズデンカも口を挟んだ。


 せっかくカミーユによって落ち着いて眠りに落ちたドゥブラヴカがまた騒ぎ出してはことだったからだ。


「ふうむ、じゃあどうしよう」


「答えます。私……刺青があるのです。背中に……罪状が事細かに記された」


 ズデンカは思い出した。昔、ゴルダヴァでは罪人はそういう刺青をされる風習があった。


 ――今でも続いているのか。


「でも、あなたはずっとドゥブラヴカさんと暮らしてきたはずでは?」


「いえ、妹と再会したのは、中年に近付いてからです。それまで空白の時期が長かったんです。その間に、いろいろと……」


「なるほど。そんなものなんてことないですよ。わたしたちだって、旅の中で人を殺めてきている。それと比べれば大したものじゃないはずだ」


 ルナはパイプを吸って煙を吐いた。


「お前はそうでも他人はそうじゃない。違いを理解しろ」


 ズデンカは戒めた。


「何をしたのかは問わないで置きましょう。とにかく、アナさんに知られちゃいけないことだったはずだ。そしてもちろん、ドゥブラヴカさんにも」


「はい」


 ドラガは大人しく言った。


 カミーユはドゥブラヴカをベッドに寝かしつけに行っていた。


「さて、わたしたちもそろそろお暇しないとね」


「この状態で放置していいのか」


「いいよ。願いは叶えたんだし」


 ルナは相変わらず、傲慢に思えるぐらいマイペースだった。


「ドラガさん」


 ルナは向き直った。


「わたしにはとやかく言える資格はない。でも、アナさんのことは弔ってやってくださいね。誰にも気付かれないままなのは……悲しいから」


 囁くような声で言った。


「はい」


 ドラガは答えた。


 カミーユが戻ってきた。


「カミーユ、どうせならここにいても良いんだよ」


 ルナは微笑みながら言った。


「えっ! なんでですか!」


「ドゥブラヴカさんは君の中にアナさんを見た。だから君を指差して娘だと呼んだんじゃないのかい?」


「そっ! そんなこと!」


「実に立派な娘っぷりだったじゃないか。介抱までしちゃってさ」


「いやですよ。こんな何も知らない土地に!」


 カミーユは顔を赤くし、爪先で立って抗弁した。


「アホか。いじめてやるんじゃねえ」


 ズデンカはルナの頭を撲った。


「いてて!」


 ルナは頭を押さえた。


 相変わらずの反応だ。

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