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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十二話 ひとさらい(4)

「とりあえず、ここで話すのもなんです。お家の方へ、招待してくだされば幸いなのですが!」


 ルナが提案した。


 ドゥブラヴカはズデンカを睨んでいた。


「メイドはお気になさらず」


 ルナが上手い具合にはぐらかして先に歩きだした。


――こういう時だけはルナがいてくれると助かるな。


 と内心思いつつ。


 すぐに家は見えてきた。


 ズデンカはこんな奴の家だからさぞかしぼろい代物だろうと予想していたが、他の家と同じように褐色砂岩作りの落ち付いた家だった。


 ドアを開けても軋まない。ズデンカはいぶかった。


――誰か他にこの家を管理しているやつがいるんじゃないか。


 つまり、ドゥブラヴカは独り暮らしではない。そもそも独り暮らしとは言っていなかったので、ズデンカの勝手な思い込みなのかも知れない。


 事実、扉に触れたら中から音がした。


 同じく中年の女が厨房の方から歩いてきたのだった。


「お前、こいつの保護者か? ほっつき歩かせるな。他人様に迷惑を掛けるな」


 ズデンカは憤激のあまり思ったままを怒鳴り付けた。


「申し訳ございません。ドゥブラヴカは私の妹で、もう長年ずっとこんな感じなんですよ」


「お姉さまですか。わたしはルナ・ペルッツです。よろしくお願いします!」


 ルナが朗らかに自己紹介した。


「ドラガと申します。ドゥブラヴカの夫は兵士となり、先の大戦で命を落としました。今はその遺族年金で暮らしていると言う状態です。最近、独立運動が盛んという話も伺っておりまして、もしや給付が断たれることになるのではないかと毎日恐ろしくってなりません」


 よほど話し相手が欲しかったのか、ドラガは問わず語りに自分の状況を話し始めた。


 だが、妹同様ルナの名前には反応しない。やはり読書に興味はないらしい。


「それは大変ですね! ところで、この家の掃除、とても行き届いてるなと思いました。もしや、ドラガさんがやっていらっしゃるんですか?」


「はい! ドゥブラニカもこうなるまでは本当に気の行き届いた子だったんですけど、あのことがあってからは一変してしまって……」


 ルナに褒められてドラガの顔は一瞬輝いたが昔のことを思い出したのかすぐに暗くなっていった。


「ぜひ、教えて下さいませんか? ドゥブラニカさんにも訊いたのですが、今ひとつよくわからなくて」


「もちろん! その前に食卓に行きましょう。この家は居間がなくて……本当に申し訳ありませんが」


 済まなそうにドラガは言った。


「いえいえ! ご一緒できるだけでありがたいですよ」


 こんな局面に限って、ルナは人を煽てるのがやけに上手い。


「本当に良いんですか……家に上がらせて頂いちゃって」


 珍しくカミーユが零した。ルナとは反対にこう言うときは黙っている場合が多いのに。


「いいのよ。あなたはあたしの娘なんだから」


 その腕を取りながらドゥブラニカが言った。


「は、はぁ……」


 とたんにカミーユは萎縮する。


 だが、このことが切欠で少しドゥブラニカの機嫌は好転したようだった。


 全員でぞろぞろと連れ立って食卓に腰を掛ける。


「さて、綺譚おはなしをうかがいましょう」


 どっかりと坐り込んだルナはパイプを取りだし、タバコを詰め直して、ライターをカチリと鳴らした。


「ふう」


 煙を吹き出す。

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