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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十一話 西山物語(10)

「あたしには守り切れる自信がない。お前の甥は死ぬかもしれんのだぞ?」


 ズデンカは改めて質問した。


「もちろん、死んだって構わない。たくさんの兵士が死んでいるんだ。ゼルグだけ特別扱いするわけにはいかない」


 ダリオは冷徹に言った。


――そんなに隊長として対面を重んじたいのかよ。


 おそらくだが、隊内でもダリオがゼルグを甘やかしているという噂は立っているのだろう。


 弱々しい甥をあえて死地に送り出すという真似を皆の前ですることで、厳しい隊長というイメージをかたち作りたいに違いない。


――ろくでもない。


 だが、今なんとしても倒さねばならないのはシュティフターだ。


 ズデンカも大を取って小を切り捨てる方に心の天秤が傾きかけた。


「とりあえず、ゼルグはどこだ」


 ズデンカはダリオに言った。


「ゼルグを呼べ」


 ダリオは近くの兵に呼びかけた。


 兵はすぐに走っていってものの十分もせずにゼルグを連れてきた。


 その顔色は既に青白かった。


「おじさん……」


 ダリオはその頬を張り倒した。


「隊長と呼べ!」


 ゼルグは涙を流しながら立ち上がった。


「隊長」


「このお方は敵の撃退方法を知っているという。倉庫まで案内して、消毒液を運べ。あとはちゃんと言った通りにこのお方が動くかどうか見張っていろ。もし、逃げ出した場合は迷わず撃て。わかったか」


 まあ、ゼルグに撃たれたところでズデンカはどうもならないのだが。


「は……はい」


 弱々しくゼルグは頷いた。 


 そして、歩き出す。


 ズデンカは何も言わず尾いていった。


 ゼルグは熱い思いを秘めていると、ダリオは語った。


 だが、実際はそう思いたいのだろう。


 ゼルグのよたよたした歩き方からは、とてもそのようなものをズデンカは感じ取れなかった。


 テントの合間を縫って、二人は歩く。


「お前の命の保証はできない」


 後ろから声を掛ける。


「うん……わかっている。兵士はいつどこで死んでも……」


 蚊の鳴くような音だった。


「死にたくはないんだろ」


 ズデンカは続けた。


「………………うん」


 長い沈黙の末に、誰も周りにいないことを確認しながらゼルグは言った。 


ズデンカは最初お前を守り切れないとはっきり告げようと思ったが、とても言い出せなくなっていた。


「とりあえず、消毒液だ」


 ゼルグに案内されたテントの中にズデンカは入った。


 棚が幾つも設けられてあり、樽ほどの大きさの壜が幾つも置いてあった。


 ズデンカも多少は薬の知識があったのでエタノールの場所をすぐに探し出すことができた。


 ズデンカは軽々と壜を担ぎ上げた。中にはなみなみと液体が入っている。


「ちょっとこい」


ズデンカはそれをゼルグに手渡した。


 途端にゼルグの膝が笑い始める。


 思いのだ。


――あたしは持っていく方が早いな。こいつに任せてたら落とすかもしれん。


 ズデンカは壜を取り返そうとした。


 ゼルグが首を振る。


「消毒薬を運ぶのは俺の任務だ。お前には関係ない」


 ズデンカは呆れた。


「落としたら殺すぞ。それでもいいのか」


 ズデンカは少し荒っぽい言い方をした。


「いい」


 だが、ゼルグは言い張った。


「勝手にしろ」


 ズデンカは歩き出した。よたよたとゼルグが突いてくる。


――あー、こりゃ恰好の的になるな。


 シュティフターに頭を動かされているとは言え、ブレヒトは腕の良い射撃手だ。


 無理にでも奪って走り出すことを考え始めたところで、後ろから、


「わたしも尾いていくよ」


 と声が掛かった。


 ルナ・ペルッツだった。

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