表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

534/1241

第五十一話 西山物語(9)

――だが、どうやって殺す?


 ズデンカは再び同じことを自問自答した。


 弱点は必ずあるはずだ。


 ズデンカは頭を回転させ、シュティフターの発言を精査していった。


 そう言えば。


 ズデンカは一つ思い至った。


『腐爛の華』。


 やつの能力名はそう言った。


 何が『腐爛』なのだろう?


 もしかしたら。


――やつの操っている肉は全て腐敗しているのかもしれない。


 ズデンカは思い至った。屍体の腐肉を操る能力がやつの力の正体なのかも知れない。


 大蟻喰と似てはいるが、その力は限定される。


 自身が集めた腐肉が全て消滅すれば、シュティフターも死ぬのだ。


 飽くまでこれは推測だった。


 だが、確からしい推測だった。


――なら、弱点も、おそらくは。


 ズデンカは駈け出した。


 敵ではなく、逆の方に。


 ルナやゲリラたちのいる方角へ。


 西山へ。


 無数の大蟻喰は巨大な赤黒い肉塊となったシュティフターを取り巻いていた。


「お仲間は言っちゃうようですよ!」


 籠もった声が肉塊から響く。


「仲間じゃないよ! お前はボクだけで十分だ」


 余裕に満ちた声で大蟻喰が答え返すのがズデンカの耳に入ってきた。


 続いて、ゲリラたちによるガトリング砲が連射される音が響く。


 横を幾つもの弾が掠めていく。


 ズデンカは巧みにそれを避けながら、平原を駆け抜け、先ほど降りた小高い場所を登り、西山へ至る。


 後はルナの元に行くだけだった。


「大丈夫?」


 ルナは訊いた。


「お前こそ大丈夫か? 怪我はないか?」


 ズデンカはルナの肩を引き寄せて確かめた。


 鼓動はむしろ早いぐらいだった。


 ズデンカは安心した。


「うん」


 ルナは短く答えた。


 周りの雰囲気はさっきよりピリピリした度合いを増していた。


「お前とあいつらの関係は何なんだ?」


 ダリオが厳しく訊いた。


「あたしらを追ってきた連中だ。まさかこんな場所に現れるとは思ってなかった」


 ズデンカは正直に話した。


「なんだと。お前らが来なければ、あたら人名を失うこともなかったんだぞ!」


 他の兵士たちが叫んだ。


「まことにすまん。謝る」


 ズデンカは深々と頭を下げた。だがそれで引き下がる連中ではない。


「謝られても仕方ない!」 


「そもそも、お前らみたいな女がなぜ戦場へやってきた?」


 ズデンカは言い返したくもなったが、黙り続けた。


「言い争っても無駄だ。今はこの危機をどうやって回避するかどうかだろう」


 ダリオが兵士たちを押さえた。


「やつら撃退方法について、あたしに心当たりがある」


 ズデンカはダリオの眼を見据えて言った。


「ほんとうか?」


「ほんとうだ」


 ズデンカは必死だった。


「ならどうやって倒すか教えてくれんか?」


 ダリオは訊いた。


「消毒液はないか? 少しだけじゃダメだ。何リットルも必要だ」


 ズデンカは簡潔に説明する。


「それをどうする?」


「あの肉の怪物に掛ける。大きめの瓶にでも詰めて持っていけばいい」


「お前だけで運べるか」


「あたしの力なら出来る」


 ダリオは疑わしそうだった。


「消毒液は貴重だ。今でも多くの負傷兵がいる」


「あたしは確実にあいつを屠れる。金も幾らでも払う、だから譲ってくれないか」 


 ズデンカはまた頭を下げた。


「お前一人だけでは信用出来ない……ゼルグに運ばせる」


「何だと!」


 ズデンカは驚愕した。


――あんなガキのお守りをしながら移動しろっていうのかよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ