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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十一話 西山物語(7)

 いつの間にやってきたのだろうか。


 自慢げな笑みを浮かべながら見栄を切っている。


「ボクがいなきゃ、負けちゃうだろね」


 嫌らしく声を低めながら大蟻喰は言った。


「負けはしないが多少手間が掛かる」


 ズデンカは正直に言った。


「結局手伝って欲しいってことじゃんか」


「まあ、そういうことだ」


 何だかんだ言いながら大蟻喰はルナが好きだ。その身体を食べたいとまで言うほどなのだから、相当だろう。


 オルランドやヒルデガルトで人を食べる事件を引き起こしながら、何だかんだ言いながらルナの旅にズッと尾いてきている。


 ズデンカにとって鬱陶しいことこの上ない相手だったが、今は役に立つのだから使うに越したことはないだろう。


「ふん。お前なんかの手伝いはごめんだよ。でも、こいつらルナを捕らえようとしてる連中だろ? なら、戦わざるを得ないな」


 と大蟻喰は来ていたフードの袖を捲り、シュティフターに向かい合った。


「キミの相手はボクがやるべきだと、なぜだか勘で思う」


「なるほど、たしかに私も思います。何かあなたと私には共通点があるような気がする」


「ふん、ハウザーなんかに与えて貰った力なんて、所詮付け焼き刃さ。ボクはそんなものなくたって自分の力で身につけたよ」


 そう言って大蟻喰は相手に飛びかかった。


 シュティフターは躱す――と思いきや。


 その身体は膨れ上がった。


 着衣も特殊な者を着ているのか、膨張とともに縦へ横へ大きく広がる。


 ぼよん。ぼよん。


 大蟻喰の突撃を跳ね返す。


「何だよこいつ、ものすげえデブだ」


 大蟻喰は顔を顰めていた。


「デブとは失礼ですね。私は自分の肉体――いえ、それだけではなく他人の肉体だって自在に操れるのです」


――ああ、だからそれでブレヒトの腕を元に戻したのか。確かにこいつは、生かしておくと厄介だ。


 ズデンカは納得した。


「だからどうした? ボクはこんなことも出来るよ」


 大蟻喰は猿臂ひじを伸ばした。するとそれはみるみる、二倍の大きさになる。


 二倍は更に四倍、八倍。


 大蟻喰は自分の腕だけを巨大にしたのだ。それを思い切りブンブンと振り回して、相手に叩き付けた。


 ずしり。


 巨大な腕を受けて、シュティフターは二歩三歩後ろに退いた。


「やりますねえ!」


 さも互角の相手を見付けたかのように喜びに満ちた、薄汚い笑みをシュティフターは漏らした。


 その横面を大蟻喰は思いっきり張り倒した。


 ぼよんぼよんと跳ねながら血で溢れ返った大平原を転がるシュティフター。


「ほらほらほらほらぁ。ここまで来てみなさい!」


ズデンカは遮二無二撲り掛かってくるルツィドールをやり過ごしながら、パニツァの冷静な打撃を避けていた。ついでにブレヒトの火炎放射だ。


――クソ、あたしが助太刀したらあんなデブ、すぐ殺せるんだが。


 ズデンカは心の中で毒づいた。


 大蟻喰は腕を元の大きさに戻し、ふざけて挑発を続けるシュティフターの腹の上へと飛び乗った。


「その腹の皮、破ってやるよ」


 そう言って大蟻喰は腕を服ごとシュティフターの腹の皮へ叩き込もうとする。


 ところが手を突っ込むが速いか。


 ぶくぶくに膨れ上がっていたシュティフターは風船のように破裂し、その断片は水のように飛び散った。


 やがてその水がまたぶくぶくと伸び上がり人の形を成した。


 シュティフターだ。


 無数のシュティフターが大蟻喰を囲んでいた。


「これじゃあ、倒せないでしょ」


 嘲笑うように無数の口でシュティフターが言う。


「面白いことになった」


 大蟻喰も笑みで返した。

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