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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五十一話 西山物語(6)

「うん」


 ルナは弱々しく呟く。


 ズデンカはルナを後ろ向きにして、自身は全速力で駈け出した。


 小高くなっている場所を下り、血の海を抜け、ハウザーへと直進する。


 と、前に立ちはだかる影があった。


「久しぶりですねぇ! 今度こそ、私のコレクションになって貰いますよ」


 パニッツァだった。


 ズデンカはかつて、ラミュで吸血鬼を蒐集しているパニッツァの虜になろうとしたことがあった。


 その傘から放たれる光『紫の雲』はズデンカの眼を射て周りを見えなくした。


「二度同じ手はくわねえよ!」


 ズデンカは地を蹴って飛び上がり、パニッツァが今まさに開こうとした傘を叩きつぶした。


 バラバラになって砕け散る。


 もちろんパニッツァが腹を撲ろうとしてくることぐらいズデンカはわかっていた。


 即座に退避し、距離を取って睨み合う体勢に戻る。


 もちろん、撲られたところでさしたる痛みは感じないが、恢復に掛ける時間が無駄だった。


「私は、あなたと直接戦って虜にしたいのですよ!」


 パニッツァは自慢の傘が砕かれたことには少しも頓着せず、物凄い勢いで拳を叩き込んできた。


 ズデンカはそれを躱す。


 そして、代わりに撲り掛かった。


 パニッツァも動きは俊敏で、胴に当てることすら出来ない。


――クソッ。こんなとこでちんたらやってられないのに。


 ズデンカの狙いは赤い服の女だった。


――やつを倒さないとブレヒトのように恢復させられるかもしれねえ。


 ならどれだけ相手にダメージを負わせても結局は意味がない。


 ズデンカは避けながら前へ前へと進んだ。


「おやおや、俺とそんなに戦いたいのかい」


 呆れ顔でハウザーが首を振る。 


「お前にゃ用はねえよ!」


 ズデンカは叫んだ。


 そのズデンカにぶつかってくる者がいた。


「ハウザーさまに気安く声を掛けるなクソメイドが!」


 ルツィドールだ。


 燃え上がるような眼でズデンカを睨み付けている。


 二度三度も撃退されて、全く懲りていないらしい。


 いや、むしろだからこそズデンカへ敵意の炎を燃やすのだろう。


 前門のルツィドール、後門のパニッツァ。


――めんどくせえ。


 ズデンカは出来るだけ二人を引き離そうとしたが、付かず離れず追ってくる。


 それでも大分ハウザーのところまで距離を縮めることができた。


 と、物凄い火の玉が打ち出されて眼の前を掠めていった。


「私を忘れて貰っては困りますね」


 ブレヒトだった。


 三人も相手にしなければならない。


 だがズデンカが本当に殺したい相手は、もっと向こうにいるのだ。


 女は涼やかな笑みをズデンカに送った。


 そしてスカートの裾を抓んで一礼カーテシーする。


「お初にお目に掛かります。私は『詐欺師の楽園』席次五、ヨゼフィーネ・シュティフターともうします」


「名前などどうでもいい! お前は恢復能力を持っているだろう?」


 ズデンカは怒鳴った。


「あらあら。ずいぶん品のない人ですね。恢復もできる、というだけのですよ。私はもっといろいろなことが出来ます」


 シュティフターは微笑んだ。


――この四人を相手にしろってのか。


 ズデンカは攻撃を防ぎながら思考を回転させた。


 幾らでも戦い続けることは出来るが、ルナが持つかどうか。


 ズデンカは苦悩した。


「やれやれ、ズデ公もここまでかな」


 聞き覚えのある声が聞こえた。


 大蟻喰だった。

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