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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十八話 だれも完全ではない(9)

「ちょっと、待ってくださーい!」


 カミーユが追い付く。 


「たしかに、そこは捜していなかったからな」


 ズデンカも納得した。


「家庭菜園ってどちらにあるんでしょう」


 ルナがアリダに訊いた。


「家の……裏手にあります」


 消え入りそうな声でアリダが答えた。


「早速しゅっぱーつ!」 


 それを訊いたルナは軽快に歩き出した。


 屋敷の外に出ると、三人は裏側を目指した。


「確かにちゃんと手入れされてそうだ」


 先ほど出た小松菜、トマトやカボチャ、ラディッシュなどさまざまな植物が幾段もの畑で育っていた。 


「なるほど、確かにみずみずしい色をしている」


 ルナはラディッシュを引っこ抜いて、ハンカチで拭いて真っ赤な根を掌でころころ転がしていた。


「やめとけ」


 ズデンカはとりあえず制止しておいた。


 だが、その声にはあまり力を入れず、ズデンカは再び袋を開けて牛の首――モラクスを取り出した。


「くせえ! くせえ! くせえ!」


 とたんに絶叫を始める。


「この下になんかあるんじゃねえか」


 ズデンカは訊いてみた。可能性があるとしたら、そこしかありえなかったからだ。


「ああ! そうかもしれんな! 鼻がひん曲がりそうだ。早く袋にしまってくれよ!」


 モラクスは喚いた。


「とりあえず、ここを掘り返す」


 ズデンカはモラクスを血の上に置きっ放しにして、シャベルを探し始めた。


 すぐに見つかった。屋敷の壁に立て掛けるように、ちょうど三つ重ねて置かれている。


 ズデンカはそれの一つを取って、地面に突き立て、その上に靴を掛けた。


 「ルナ、カミーユ、お前らも頼むぞ!」


 ズデンカは気兼ねなく命令した。


 とくにカミーユに対しては今まで辛いことをやらせないように接してきたが、寝室での逞しい言動を見て、これぐらいならできるだろうと確信したからだ。


 ズデンカは掘り始める。


「はい」


 カミーユは答えてすぐにシャベルを取り、ズデンカに続いた。


 ルナがやらない。


「お前!」


 ズデンカは怒鳴った。


「めんどくさい」


 ルナはそっぽを向いた。


「クズが」


 ズデンカは口汚い言葉を使った。


 だが、さすがに首根っこを掴んで連れてくることはせず、黙々と作業を続けた。


 時間が無駄だったからだ。


 しばらくは熱中した。


 すると。


「ルナさーん。ダメじゃないですかぁ!」


 声が聞こえる。


 にんまりと笑いを浮かべてカミーユがぼんやりしているルナの後ろに近付いた。


「皆でやらなくちゃいけないときに、なーに一人勝手にほっつき歩いてるんです?」


 カミーユは笑顔を保ったままだが、そこには言い知れぬ圧があった。


 ズデンカでも一瞬恐怖を感じたほどだ。


「はっ、はぁい」


 ルナはすっかり萎縮していた。またその首根っこが引っ掴まれる。


 そのまま畑まで連れていかれた。


「さあ、しっかり掘るんですよ」


 カミーユはルナにシャベルを渡して、自分も熱心に掘り始めた。


「ちぇっ」


 ルナはぶつくさゴネながらシャベルを動かし始めた。


――シメシメ。


 ズデンカは笑いたい感情を抑えた。


 掘り進むに従って、何か薄暗い、瘴気之様なものが土の中から洩れ始めた。


「ルナ、周りを固めろ」


「もうやってるよ」


 ルナはうんざりしたように言った。


 土はやがて尽きた。大きな空洞がそこに開いていた。


 まず、現れ出たのは脳味噌だった。


 剥き出しの頭脳が二つ。


「ほら、わたしの言ったとおりだろ?」


 ルナは言った。

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