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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十八話 だれも完全ではない(8)

 さきほど会話を交わしたメイドが地に伏せ、首を押さえて、苦しみ悶えていたのだ。


「お前、大丈夫か」


 ズデンカは駈け寄る。


 しかし、メイドが掻き毟る喉は異常に膨れ上がっていた。まるで球体を幾つも詰め込んだようだ。


 ズデンカが助けようとする間もなく、それは破裂した。


 血が滴り、ズデンカに降りかかる。メイドの眼球は白く染まり、喉から血が溢れていた。


「腹まで裂いて」


 ルナは言った。ズデンカはその異常な命令にしばらく躊躇ったが従った。


 ルナは血で身体が汚れることも厭わず近付いて来て、手袋を脱ぎ、


「ごめんね」


 とメイドも死骸に呼びかけながら裂かれたなかへ手を突っ込んだ。


「お前も変なやつだな。食事で汚れるのは気にするのに血がいいのか」


 ズデンカは呆れた。


「足だけじゃなく、胃袋までごっそり盗まれている。どうやら黒い人というのは身体の中まで入り込んでいくようですね」


 それは無視してルナはイゴールとアリダに呼びかけた。


「なぜ、私に」


 イゴールの声は震えていた。


「ご存じなのでしょう。すべてを」


 ルナは手を抜いた。ズデンカが渡してやったハンカチでぬぐう。


「……はい」


 イゴールは項垂れた。


「詳しく話して聞かせてくださらないでしょうか」


 ルナは冷ややかに手を差しのべた。


「いつの頃からか、この家に住み始めたのです。何者かわからぬものが。どこからともなく現れて、家の者たちの身体の一部を少しずつ掠め取っていくようになったのです」


「なんであなた方ご夫婦はどこも取られていないのですか?」


 ルナは訊いた。ズデンカもした質問だ。


「代わりに……私たちの身体の一部を取る代わりに……使用人たちのものを差し出させたのです」


「なるほど、よくある話だ。幼い子供を引き取って育てた慈善家の正体は、自分の身体の一部を奪われることを恐れる臆病者だった」


 ルナは言った。


「そんなことはありません! 子供たちを引き取ったときはもちろん、心から助けたいと思ったからなのです! でも、私は怖かったのです! 自分の体の一部がなくなることが……」


 イゴールは弁解した。


「で、結果として彼らはあなたの身代わりになったと」


 ルナは冷淡だった。


「わたくしも怖かったんです!」


 アリダが割り込んできた。


「自分がそんなひどい目にあうなんて聞いてしまっては、大事に育てた子供たちでも、所詮は他人、どうなっても構わないって思い始めるようになったんです!」


 アリダは涙ながらに話す。


「あなたがたは正しいですよ。そんな状態に陥ったらわたしだってそうする。他人を犠牲にしても、人は自分の負担は最小限に抑えたいものです」


 やっとルナがニヤリと笑った。


 イゴールとアリダはガクリと床にへたり込んだ。


 使用人一同は明かされた事実に暗澹とした顔付きになっていた。


 だが、一人も逃げ出す者はいない。


「他に行き場がないのだから、仕方ないですよねー!」


 ルナは皆に朗らかに手を振った。


そして、歩き出す。


「どこへ行く」


 ズデンカは併歩する。


「一つ、思い当たったことがあってね。いろいろ話を訊いてて、犯人が潜んでいるとしたらあそこしかないって思い当たったんだ」


「家庭菜園か」


 ズデンカは言った。


「あたり」


 ルナは答えた。

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