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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十八話 だれも完全ではない(7)

「アホか!」


 ズデンカは思わずその頭をぶんなぐっていた。


 ルナはころっと後ろを向いて枕に顔を押しつけた。


「黒い人だか影だかしらねえが、見つかるまで探してやる」


 ズデンカは腕まくりした。


「私も手伝います!」


 ベッドに腰掛けていたカミーユが立ち上がる。


「いや、お前はいい」


 ズデンカは断った。


「よくないです! 何もしないわけにはいかないですよ」


「お前は一度やられたら死ぬんだぞ」


 直近で命を救えなかった出来事があったこともあり、ズデンカはいつにもましてナーバスだった。


「ズデンカさんだって相性が悪い敵なら捕まっちゃうでしょ!」


 カミーユは前に身を乗り出し、ズデンカを睨んだ。


 ちょっと前まではついぞ見せなかった態度だ。


「仲良きことはよきことかな。二人で一緒に行きなしゃい!」


 ルナが枕に顔を押さえ付けながら籠もらない声で言った。


「ルナさんも来るんですよー! はい! はい!」


 カミーユはルナの襟首を掴んで引き上げ、手を叩きながら無理矢理ルナを追い立てていった。


――こいついつのまにあたしを見倣った?


 ズデンカも若干引いてしまうほどだった。


「わかったよー、わかったってば」


 ルナは渋々従っている。


 そのしょぼくれた顔を見てズデンカは溜飲が下がった。


 再び廊下に出た。


 人気がない。しんとしている。


 ズデンカは袋からモラクスを引き摺りだした。


「くっせえ! くっせえ! 早く引っ込めてくれ、鼻が詰まりそうだ」


 モラクスは喚いた。


「どこから臭いがする?」


「知らねえ。わからねえよ。どこもかしこからも臭い立ってくるんだよ」


「場所はわからないか?」


 ズデンカは完全に訊問口調になっていた。


――こいつが臭かろうがこっちは知ったこっちゃない。


 だが、臭いの根源がわからないのはやっかいだ。


 一行は廊下を行ったり来たりした。だが、モラクスを出してどこを嗅がせても「臭い」しか連呼しない。


「もういい加減こいつを潰すべきか」


 ズデンカの怒りは深まっていた。


 モラクスの牛の顔を引き攣らせた。


「まあまあ。捜しようがないんじゃ仕方がない。聞き込みを続けよう」


 ルナは宥める。


 食卓に戻った。さすがにイゴールとアリダは平常に服していた。


「さきほどは取り乱してしまい。大変申し訳ありませんでした」


 イゴールは頭を下げる。


「いえいえ。でも、この館では不思議な事件が起こっている、いや起こり続けているっていう話じゃないですか」


 イゴールは一瞬ハッとした。


「その話、どこから?」


「わたしは耳敏みみざといんですよ。自然と噂が聞こえて参りましたね」


 ルナは嘘を吐いた。


「この家の使用人たちはほとんど身体のどこかを欠いている」


 ズデンカはイゴールを睨み付けた。


「仰る通りです。この家には化け物が出るんですよ。私程度のものにはなすすべがなくて、仕方なく」


「お前は五体満足だよな」


 ズデンカは睨んだ。


「はぁ……それが……何か」


 イゴールは額に垂れた汗を拭いた。


「知らばっくれるんじゃねえよ! この家の使用人たちはみんな身寄りがなくお前らに養われてる同然っていうじゃねえか。知らねえわけがねえだよ!」


「ううううううっ、ああああああ!」


 突然、絹を裂く叫び声が起こった。使用人の列からだ。


 ルナもズデンカも振り返った。

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