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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十八話 だれも完全ではない(1)

ゴルダヴァ南部ロヴラック付近――


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツにはまるで体力がない。


 三人連れの最後尾でよろよろ身体を半分折にし、荒く息を吐きながら、引き摺られるように歩いていた。


 重い荷物を持っているのか、と思えば鞄一つだけなのだ。


「クソが! いい加減体力をつけろ!」


 いままで旅先でいろいろひ弱なルナを庇ってやってきていたメイド兼従者兼馭者の吸血鬼ヴルダラクズデンカもさすがに愛想が尽きようとしていた。


「まあまあ、もうそろそろ街も近いんですし!」


 ナイフ投げのカミーユ・ボレルがなだめた。


 南部では数少ない大都市ロヴラックの門は遠くに見えてきていた。


 ルナが馬鹿げたことをやってズデンカがそれを怒り、カミーユがなだめるという三位一体が旅の中ですでに出来上がっていた。


 ズデンカはカミーユにあまりそういう役目をさせたくなかった。一行の中ではやはりカミーユが一番優しく、そして臆病だ。


 だからか、いつも「まあまあ」となりやすいのだ。これは相手次第によればひどく舐められる態度にも映りやすい。


 少しばかり世渡りの長い立場として、ズデンカは内心モヤモヤした感情が募っていくのがよくわかった。


――本当に実力のあるカミーユが舐められるのは業腹だ。


 とは言え、頭から言い聞かせてもきっと「」そうですね」と答えてくれるだろうが、やがてまた「まあまあ」が始まるだろう。


「はぁはぁ、わたしたちはみんな誰も完全ではないからね」


 ルナが出し抜けぬに言った。


「だからどうした?」


 ズデンカは冷たい態度を崩さない。崩してしまってはだめなのだ。


「足りない部分は補い合って生きていけばいいんだよ」


 ルナは何歩か前に進んだが、依然としてのろのろしている。


「お前は他者に負うところが多過ぎる」


 ズデンカは自分でも会心の指摘をしてやったと思った。


「それでいいじゃないか。今回はツケってことで」


 ルナは顔を上げた。満面の笑みが浮んでいる。少し元気を恢復したようだ。


「ルナさん! 元通りになった!」


 カミーユが顔を輝かせた。


「まだしんどいよ。でも、そろそろ街だからこれぐらいは歩かないとね」


 ルナはウインクを送った。


「ケッ」


 ズデンカは先へ急ぐ。先日たくさんの荷物を処分したこともあってか、その足どりはとても軽かった。


 ロヴラックに検問所はないので門をすぐに抜けることが出来た。山岳地帯にある街なので、外国人が多く訪問すると言う訳でもないのだろう。


 ズデンカも幼い頃はここへ何度も行った記憶がある。父のゴルシャに馬に乗せられて連れていかれたのだ。


 自分の記憶に纏わる場所に還ると、どうしてこうも懐かしいような、恥ずかしいような気分になるのだろう。


 ズデンカはあまり約二百年前と街並みが変わっていないことに気付いて、そっぽを向きながら歩いた。


 もちろん、自分を覚えている人間など生き残っているはずがない。


 吸血鬼でもない限りは。


 ルナとカミーユがやがて追い付いてくる。


 なんとルナはカミーユの肩に手を置いて、その力を借りてここまでやってきたようだ。


――あいつ張り倒す!


 ズデンカは肩を怒らせて元来た道を引き返した。


 ところが、だ。


 ズデンカが二人に近付いた時には別のものが、既に別の誰かが二人の前にやってきていたのだ。


 日焼けした小柄な女だった。それでもズデンカは警戒した。

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