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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十七話 みどりのゆび(2)

「?」


 フランツはハンドルに注意を傾けながら首を捻った。


 オドラデクと違ってファキイルが無駄口を叩くことは少ない。


 ファキイルはレオパルディの町の中央部を指差していた。


 見ると、全体に蔦が鬱蒼と絡んだ塔が、天空に向けて突き出してあった。


 それが緑の指に見えたと言うことだろう。


「ずいぶん小洒落た言い方するじゃありませんかぁ」


 オドラデクが冷やかした。


「あれはなんなのだ?」


 それは無視してファキイルはフランツに問い掛けてきた。


「俺に訊かれても」


 フランツは戸惑う。


 レオパルディに関する詳しい情報をフランツは得ていない。


 というか、ほとんどあまり知らない状態で向かっているのだった。


――何が慎重だ。


 フランツは自分を笑い、オドラデクを笑う。


 道の先に検問所が見えてきた。今まで何度か受けてきたが特に怪しまれず通過できた。


 今回はどうだろうか。


 ファキイルは素早く荷台に戻った。


 あたりまえだ。そのままでいると確実に訊問される。


 しばらく待った後で、フランツはブレーキを踏んだ。


 トラックはゆっくりと停止する。


 衛兵が降りてきた。フランツは懐に入れていた旅券を見せる。


「どうぞ、ごゆっくり」


 咎められることなく、門は開かれて中に招き入れられる。


 また車は動き出した。


「ふう」


 フランツは安堵の息を漏らした。


「まさかフランツさぁん。捕まっちゃうと思ったんですかぁ」


 オドラデクは男の姿になっていた。姿を変えた方が気付かれないと踏んだのだろう。


「そんなことはないが、情報が回っている可能性もあるからな」


 お前も思っただろうがと突っ込みたい気持ちを抑えながらフランツは言った。


 街の入り口付近の人通りは少なかったが、どんどん増えてくる。


 フランツはオドラデクとはもう話さないようにした。


 街の中央部に進む。緑の指は次第に近付いて来た。


 あまり自動車が普及していない社会では駐車場もなかなか見当たらない。


 仕方がないので、フランツは空き地となっている場所に停めることにした。


「ふう、くたくたですよ。自動車の旅なんて嫌だな」


 扉を開けてオドラデクは飛び降りた。


 フランツも降りて扉の鍵をちゃんと閉めた。


――前の持ち主はうっかり放置したからな。


「みどりのゆび」


 ファキイルはまた繰り返している。よっぽど塔のかたちに興味を引かれたらしい。


「中に入れるなら、入りたいのか?」


 フランツは訊いた。


「うむ」


 ファキイルは頷いた。


 フランツは早く宿を捜して報告書を執筆したかった。


 だがファキイルには恩義がある。


 旅先で困ったときは何度も助けて貰った。ファキイルがいなければ死んでいたかもしれないのだ。


 そう考えれば少しぐらいはわがままに付き合ってやらねばなと思えてきてしまう。


 フランツは歩き出した。ファキイルも徒歩で尾いていく。


「いくんですかぁ」


 オドラデクも追ってくる。


「ああ」


「なんでですか? 意味があるんですか?」


 やたらと絡んできた。


「ない。だがファキイルが行きたいと言っているからな」


「ふん。ファキイルさんだけ特別扱いですか。ぼくには何もしてくれてないのに」


 オドラデクは子供のように頬を膨らませた。

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