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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十七話 みどりのゆび(1)

――ランドルフィ王国南部レオパルディ付近

 

 左右を見回し、ぶつかりそうな障碍物がないか捜す。


 スワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツはあくまで安全運転だ。


 実際、あまり慣れていないというのもある。講習を受けたときにしか自分から動かしていないのだから。


「もっと早くいけるでしょう? ぼくに任してください」


 二人乗りの操縦席の横でオドラデクが好き勝手を言う。


 フランツは答えない。こんな得体の知れない化け物に任せるわけにはいかないのだ。運転を続ける。


 車はゆっくりながら確実に進んでいく。


 フランツは犬狼神ファキイルが気に掛かった。自分から荷台でいいと言い乗った。何か襲撃があったら知らせるとのことだ。


 それから話していない。


「フランツさん、あなたはそうなにごとも慎重派過ぎてつまらない! ふぁ~」


 オドラデクは盛大なあくびを放ちながら言った。


「慎重で良いんだよ。ちゃんとやり遂げることに意味がある」


 仕方なしにフランツは答えた。


「過程を楽しむ生き物でしょう。人間てのは」


「お前は人間ではないだろう」


 フランツは言った。


「まぁたフランツさん! そんな混ぜっ返しを言っちゃってえ」


「混ぜっ返しではない。『また』でもない」


 フランツは続けざまに言葉の弾丸をはなつ。


「ふん」 


 オドラデクは言いたいことを封じられて腕を組んで黙ってしまった。


「フランツ」


 突然、声を掛けられて驚いた。


 窓の外を併走しながらファイルが話し掛けてきたのだ。


「どうした」


「町が見えてきたぞ」


 レオパルディはランドルフィ南部の大きな都市だ。


 周辺にはアントネッリやパゾリーニのような小さな町が固まっているが、フランツはそこまで行くつもりはない。


 飽くまで目的はスワスティカ残党のクリスティーネ・ボリバルの分身の完全掃討だ。


 既にフランツは一人仕留めていたが、まだまだ発見例、報告例は多い。


 なぜ、ランドルフィに集中しているのかはこれまでわからなかったが、父親が枢機卿のルスティカーナであることが判明した。


 レオパルディも目撃情報の上がっていた地域の一つだが、フランツはまず報告書を書き上げてシエラフィータ政府に弁解をしたかった。


ルスティカーナは大戦を終結に導いた英雄の一人だ。殺したわけではないにしろ、何も申し開きをしなかったら、フランツが追われる身になってしまう。


 時間は一刻も争えない。フランツは焦っていた。


 もちろん、ランドルフィの政府からも追跡される恐れはあった。


 だが諸国と較べても警察機構の動きの鈍さには定評がある。


 とはいえ、政界の要人でもあるから、注意しなければならないが、目撃者もいない以上フランツが犯人として狙われるまでには時間が掛かることだろう。


 一行が南に行ってから迂回しても警官隊に待ち構えられているということはないだろう。


――少し楽天的に考えたかも知れない。


 だが、フランツはボリバルの情報をもっと引き出したかった。


 人体まで複製できる能力をもっている以上、危険な賭けであることはわかっているが、フランツは捕縛も視野に入れようとしていた。


――あれだけたくさんいるんだ、少しぐらい……。


 と考えてフランツは自分を叱った。


 スワスティカは残らず狩り尽くす。


 それは、決めたことだ。


 いくら本物ではないとしても、日和った考えをしてはならない。


「みどりのゆび」


 そこで、ファキイルが突然変なことを言い始めた。

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