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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十六話 オロカモノとハープ(11)

 背が高い、金髪にして白皙碧眼の男――あの吸血鬼が眼の前に立っていたのだ。


 吸血鬼はアコの首を掴み、肩先まで持ち上げていた。


 いつの間にか、バリアの中にまで侵入してきたらしい。


 ルナも、カミーユも驚いていた。


――あたしとしたことが、少しも気付けなかった。


 ズデンカは口惜くやしかった。


「私はダーヴェルです。オーガスタス・ダーヴェル」


 男は自己紹介した。


 ズデンカもその名前を聞いたことがあった。


 ヴァンパイアの中でも最長老の一人と言われている。オリファントのうまれで、大分昔に死んだと伝えられていたが……。


 現に眼の前に存在しているではないか。


「今は『ラ・グズラ』に身を寄せています。あなたがズデンカさんでしょう。メンバーから聞きましたよ。褐色の膚を持つヴルダラクがいるって」


 驚くばかりに慇懃な口調だった。だが、その眼中にはルナやカミーユはない。手に持っているアコすらもものであるかのように扱っていた。


 これが、吸血鬼だ。


 長く生きているうちに人を見下し、食べ物としか見なくなっていく。ズデンカより若いハロスですらそうなっていた。


「何でそんなにまでしてアコを追う?」


 ズデンカは問うた。


 声が震えていた。


 力の差をありありと感じさせられたからだ。ダーヴェルからは覇気のようなものが滲み出していた。


 手も足もでなかった。


 以前ルナがカスパー・ハウザーを前にしたとき、言葉もなく固まってしまっていたことを思い出す。


――あたしも同じじゃないか。しかも、こんな初めて出会ったやつなんかに……。


「私が命じた持ち場を離れたからです。このものはそこいらの人間のような知恵がない。賢しらさがない。処断しなくてはなりません」


 ダーヴェルが答えた。


「何が処断だ」


 怒ろうとしたが叫ぶことすら出来なかった。操られてはいないはずだが、殺意を掻きたてようとしても萎んでいくのだ。


「おわかりでしょうが、私たちにとって人間は血を吸う対象にしか過ぎません。情を寄せるような存在ではないのですよ」


「お前にとってはそうだろうが、あたしには違う」


 ズデンカはやっと声を絞り出した。


「あなたもいずれそうなりますよ。長く生きていれば、必ずね」


 と、そう語るダーヴェルの胸に杭が突き刺さっていた。


 アコには当たらないように上手く考えられた角度で。


 ルナだ。


 ズデンカは振り返った。


「ずっと無視されてるとこっちも気分が悪くなるよね。吸血鬼は心臓に杭を打ち込めば死ぬって本で読んだのを試したかったのもある」


「馬鹿言え、それぐらいで吸血鬼は死なない……ましてやつは!」


 ダーヴェルは杭を胸から抜き放つと、ルナへ向かって放り投げた。


「はっ!」


 カミーユはそれを足で蹴り上げて、バリアの外へ吹き飛ばす。


 だが、ダーヴェルはルナの方を見て反応すらしない。まるで空気を見詰めるかのように穏やかに眺めているだけだ。


 胸に開かれた孔は次第に塞がっていく。


 そして、微笑んだままで手に持ったアコの首の骨を折った。


 その腕を伝わって血が滴り落ちる。ダーヴェルはそれを舐めた。


 ズデンカは、何も考えられなくなっていた。

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