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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十六話 オロカモノとハープ(9)

 だが、思っていたよりアコは足が速い。


 ハープに対する執着がそうさせるのだろう。炎に巻かれ苦悶の金切り声を上げている蝙蝠たちだったが、ハープを吊り下げている集団は遠く放れていたため、害をこうむっていない。


 その一部がアコに襲い掛かっているのだ。アコは言葉にならない叫びを上げて、両腕を高く広げ蝙蝠を防ごうとしていた。


 ズデンカは勢いよく跳躍して、その元へと降り立ち、アコの上を覆い被さった。


「バカヤロ。勝手に抜け出すんじゃねえよ!」


 とがなり声を上げた。


「ハープ、ハープ」


アコは繰り返し言った。


「ハープがどうしたって」


「わたしの、わたしの」


 話が出来ないものと観念していたズデンカだったが、この言葉には少し気分が明るくなるのを感じた。


 アコはハープを己のものだと感じている。ヴァンパイヤから与えられた物かどうかはよくわからないにしても、弾きこなしている打ちに愛着を感じたのだろう。


 これは、ズデンカでも理解できる感情だった。


 というより、ズデンカははっきりと共感していた。


「ハープが欲しいんだな。なんとしても取り戻したいんだな」


 念を押すようにズデンカは言った。


 アコは返事こそしなかったが、こくりと首を下げた。


「なら、あたしが取り替えしてやるよ」


 なぜ、そんなことを思ったのかよくわからなかった。


 ズデンカにとって、ハープの音色は大したものではなかった。


 ルナやカミーユが受けたような心を操られるような感銘は何も受けなかったのに、アコのハープに対する執着を知って、取り戻してやらねばと思ったのだ。


「とりあえず、戻るぞ」


 ズデンカはアコを守りながら立ち上がった。


 アコはズデンカの胴にしがみついてくる。


 少し歩き辛くはなったが、ズデンカは勢いよく進んだ。


 再びバリアの周りにいくと、既に蝙蝠の群は黒焦げになって草の中に散らばっていた。


 ズデンカは無言でルナの元に行った。


 もう太陽の光が差して来て青空が覗いていた。


「やあ、アコさん無事だったようでなにより」


 ルナはヘラヘラ笑いながら手を振っていた。


「おい、ルナ。あのハープを持っている蝙蝠を始末できるか。一気にはだめだ。ハープが地面に激突して潰れちまう」


「うーん、難しくはないけど、ちょっと面倒かなあ」


 ルナは渋った。


「もうちょっと何とかできないか」


 ルナを消耗させたくないのは山々ではあったが、ズデンカはアコにハープを返してやりたかった。


「そうだね。カミーユ。ナイフを一本貸してくれる?」


 ルナは手を差し出した。


「ええっ、危ないですよ!」


 カミーユは狼狽えた。


「いいからいいから」


 カミーユは流石に見事な手付きで眼にも止まらずナイフを取り出すと、柄の方をルナへ向けて渡した。


「ありがと」


 ルナはそれをためつすがめつした後で、


「それ!」


 と掛け声を上げた。


 遠く、ハープを運んでいる蝙蝠の一匹にそれと同じ物が突き刺さった。


 ナイフの雨だ。天から振ってきて一匹一匹正確に刺し貫いていく。


 それと共にハープの重力に引っ張られるかたちで蝙蝠たちは下へ下へとずれていく。


「はい、どうも」


 ルナがナイフをなお驚いているカミーユに返した。

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