表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

464/1238

第四十五話 柔らかい月(1)

ゴルダヴァ中部――


「ふにゃあ」


 綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツはトロけていた。


 自分は鞄一つしか持っていないのに、太陽光に照らされて、はややられてしまったらしい。


「軽い日射病だな」


 メイド兼従者兼馭者だが、今馬車はないので馭者ではない吸血鬼ヴルダラクズデンカはルナを引き寄せて額を触った。


 熱い。


 ルナは身体が強い方ではないのに旅が大好きだ。


 冬も夏も、長歩きすると体調に変化が起こりやすい。


 以前、まだ春と呼べる頃、ルナはランドルフィで日射病になりかけたことがある。


「ルナさん、大丈夫ですか?」


 そう問いかけるナイフ投げのカミーユ・ボレルは元気いっぱいだ。中部都市パヴィッチで貰った麦藁帽子をまだ頭に被っている。


 あの時は氷嚢をくれる人間が運良く見つかったが、今回はそうもいかないだろう。


 ゴルダヴァ南部は未開発な地域も多く、青々とした森と険しい山脈や深い谷戸が続くことが多いのだった。


 ズデンカにとっては自分の庭のような物だ。二百年前とほとんど何も変わっていないのだから。


 移動は簡単としても、人が住んでいる場所を見付けるのは用意ではない。時代と共に変化するのだから。


 『ゴルダヴァ地誌』によると、中部には寒村が幾つか点在するとあった。


――そこに行くか。


「ふにゃにゃああ。とりあえず、氷」


 ルナが手を開くと、犬の心臓ぐらいの大きさの氷が現れ出た。


 ズデンカはそれを受け取り、すぐにルナの額に当てた。


「そんな芸当が出来るんなら日傘なりなんなり遮蔽物を出せよ」


「ふにゃにゃん。体力が持たないよ」


 ルナはふにゃふにゃとズデンカの腕の中で崩折くずおれた。 


――馬車でも雇えば良かった。夏場に徒歩とは、とんだ失錯だったな。


 季節の変化にはとんと鈍いズデンカは悔いた。


 そういう腕や手には幾つもトランクや鞄を通し、持っている。その中でさらにルナの面倒まで見ないといけないとは。


「私に任せてください!」


 素早く動きカミーユはズデンカの腕からルナを抜き去った。


「おい、お前……」


「ズデンカさん、手一杯でしょ! よしよし、暑いでちゅねえ」


 とルナを撫で撫でする。


「ずっとそうしてて」


 なついたルナは更に柔らかくなっていった。


「馬鹿らしい」


 ズデンカは腕を組んでそっぽを向いた。


 だが若干、イライラしてもいた。


「とにかく、村を捜すぞ」


「はい!」


 カミーユもルナの手を曳いて歩き出した。


だんだん路は下っていく。谷戸が近くなったのだ。


 頭の中に入れた『ゴルダヴァ地誌』を反復してみる。


 正確にこの場所かは判りかねたが、谷間に小さな村があったはずだ。


 だが、ズデンカは田舎付き合いというものをよく知っているが、なかなかに閉鎖的だ。


 旅人が突然やってきて、おいそれと家を貸してくれるかは疑問だった。


「下りなら楽だろ」


 カミーユの運動神経は相当なものだ。急な勾配にも足を取られず、すたすたと降りていく。山慣れしたズデンカも下手をしたら追い抜かれそうなほどだ。


「ふにゃあ」


 ルナは液状化しそうなほどカミーユに抱き付いていた。


「……」


 ズデンカはこっそりそれを目の端で追いながら降りていく。


 聚落しゅうらくが見えてきた。


――この道で正しかったか。


 ズデンカはとりあえず安心した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ