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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十四話 炎のなかの絵(2)

「もうこいつには尾いていけないと思ったら離れてもいいぞ」


 眼を合わせずに言った。


「どういう意味だ」


 ファキイルはとくに声に感情を籠めてはいなかった。


「俺から離れて別の所ヘ行ってもいいと言っている」


 フランツは答えた。


「なぜ、我はフランツを離れなければならない?」


 ファキイルの声に変化はなかったが、不思議に思っているようにも感じられた。


「お前がいたいならいていいし、離れたいなら離れていい」


 ファキイルにもわかるように、言葉を選んで付け加えたが、伝わるか疑問だった。


「そうか、我はいたいからいる」


 フランツは困ってしまった。


 犬狼神――いや、神話上は『神によって作られた獣』だが神とする地域もあり、便宜的にそう呼んでいるのだが――は超自然的な力を持ち、空を飛翔することも出来る。


 特別な存在だ。


 おそらく数千数万の軍隊すらも一撃に屠りさることができるだろう。先の戦争の時に盛んに活動していたら歴史が変わったものと思われる。


 フランツはそんな存在と長く旅を続けている自分が不思議に思えて仕方なかった。


――でも俺はそれを利用しているのだ。


 何度も何度も考えているが、それはズルをしているようなものだ。己の力で任務を達成したわけではない。


 グルムバッハ、テュルリュパン、マンチーノの残党。


 全てフランツの力だけで倒したものではない。


 誰かがいて始めてなしえたことだ。


――ボリバルこそは俺独りの手で仕留めたい。


 どうどう巡りになってしまうのでフランツはもうやめにした。


 荷物をまとめると外に出た。オドラデクとファキイルも続く。


 時刻はまだ朝方。


 人通りは極めて少ない。


 石畳の路がなだらかに坂となって下っていた。


 一日寝ていないフランツだが、思ったより軽やかに歩くことができた。


「フランツさぁん、早過ぎぃ」


 オドラデクはブー垂れる。


「早く行くから意味がある。一秒だって無駄にしていられない」


 汽車に乗ることも考えた。ルナのように馬車を使ってもいい。


 だがともかく一刻も早く長居してしまったパヴェーゼから出たい。


 小人たちの死は流石に記事にすらなってはいなかったが、後々探し出される可能性はある。


 スワスティカ狩りは各国の政府から許可を得ているわけではなく、半ば非合法的に行っていることだ。


 見つかれば投獄される恐れもある。


 急いで坂を駆け下りたところで眼の前を自動車が走っていった。


 その荷台に不思議なものが載っているのをフランツは目に留めた。


 クリスティーネ・ボリバルの肖像。


 間違いない。厳重に縄で固定されているが油で描かれた絵だ。


 なぜ、そのようなものがここパヴェーゼにあるのか。


 物凄い速さで車は過ぎ去っていく。


「おい、ファキイル」


「どうした?」 


「あの車を追えるか?」


「もちろんだ」


 ファキイルは宙に浮き上がった。その服の裾をフランツは手早く掴む。


「先に行かないでったらぁ!」


 オドラデクも飛び上がって縋り付いた。


 少しづつ近付いて行く。相手もまさか追われているとは思ってないだろうから、普通の速さで車は進んで行く。


 三人は荷台に音もなく降りた。


「いきなり何なんです……あ」


 オドラデクも気付いたようだった。


「ボリバルの絵だ」


「死んでますよね、この人」


「だが、分身は生きている」


「ややこしい力を使う人ですねえ」


 オドラデクは言った。

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