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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十三話 悪魔の恋(6)

 しかし、ダニカは言葉を取り戻さない。


 受けたショックが大きすぎるのだろう。


 ズデンカはダニカを背負いながら、地面に転がしてあったモラクスの入った袋を掴んだ。


「おいモラクス。大悪魔に伝えろ。お前の好きなようにはさせんとな」


 ズデンカはきっぱりと言った。


「いや待てよ。俺は言わんでもウァサゴには伝わるんだぞ。妙なことを言うな。俺は絶対やつには逆らえない」


 モラクスは怯えているようだった。


「じゃあ幾らでも言ってやるよ。おいウァサゴ。お前、相手の許可も取らずに勝手に嫁にしようとはいい気なもんだな」


「『嫁とは言っていない。地獄で俺の侍女に加えるつもりなのだ』とウァサゴは言っている」


「より悪い。もしダニカをちょっとでも触れてみろ。あたしはこの手で殴り倒すからな」


「『面白い』とウァサゴは言っている」


 モラクスは目に見えておろおろとしている。


 やがて音もなく背の高く痩せた作業員の男が姿を現した。


 歩いてくるでもなく、宙を浮かんでくるでもなくいきなりだ。


 ズデンカでも捉えきれないぐらい早かった。


 目付きは鋭く、禍々しい光を帯びている。 まさに目立たない恰好なので、誰も、気付いている様子はない。


 いや、ルナだけは鋭い視線をこちらに送り続けていた。


「お前がウァサゴだな」


 ズデンカはすぐに察した。


「そうだ。ズデンカと言ったな。俺と勝負しようというのか」


 細い顔立ちと違い、地獄の奥から聞こえてくるように重い声だった。


「勝負を辞さないと言うだけだ。もし無理にでもダニカを連れていこうというのならな」


「だが俺は連れて行きたいのだ」


 ウァサゴは頑なだった。


「なんでこんなに作業員がいる中でダニカを選んだ」


 暗に容姿のことを訊いた。実際これだけ数多く作業員がいるなかでなぜダニカなのかがよくわからない。


「それはお前が知る必要はない。悪魔は自分の意志に基づいて物事を決める」


「だからお前の意志は関係ない。必要なのは相手の意志だろうがよ」


 ズデンカは腹が立ってきた。


「ではダニカに訊いてみろ」


「ダニカは気絶してるんだよ」


「じゃあそれを渡せ」


 話の通じない相手には今までさんざんであってきたつもりだったが、これぐらい話の通じない相手は見たこともない。


「渡さん」


「じゃあ力尽くでいくぞ」


 ズデンカは覚悟した。


 相手は大悪魔だ。簡単に負ける気はしないが、何人が死ぬことになるか。


 今まで自分たちが行く先々で死を振りまいてきたという意識は強い。


 事実ちょっと前にヒルデガルトで起こした事件は徐々に大事になりつつあるというではないか。


――ここでもまた、騒ぎを起こすのか。


「まあまあまあまあまあ」


 ルナがひょこひょこと歩いてきてウァサゴとズデンカの間に入り込んだ。


「力で勝負しないでもいいじゃありませんか」


「お前は誰だ?」


 ウァサゴは訊いた。


「わたし、ルナ・ペルッツです。さっき話さなかったかな? まあご存じないかも知れませんね。地獄じゃさすがに有名じゃないと思いますので」


 ルナは脱帽した。


「どうして人間風情が俺と拘わろうとする? 最低級の不死者ですら虫酸が走るのに」


 ウァサゴは顔を歪めた。


「面白そうだからですよ」


 ルナが言った。


「何が面白いんだ」


 ズデンカは突っ込んだ。


「最近わたしは悪魔の友人を持ちました。モラクスです。しかし、まさかその上位のウァサゴにまで会えるとは思っていませんでした」


「お前は何を言いたい?」


 ウァサゴは焦れてきた。

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