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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十三話 悪魔の恋(5)

「お前の雇い人の中にダニカって奴はいるか?」


「はい。何かご用がおありなので?」


 ブラゴタは怪しく思ったようだった。


「まあ少しな」


 ズデンカは言った。実際とつぜん工場に来た自分がそのようなことを言い出すのは不自然極まりない。


 ルナならともかくだ。


 だがこう言うときにルナは全く動かない。突っ立ってパイプを吹かしているだけだ。


「ダニカさん、かぁ、どんな人なんだろうね。わくわく」


 ブラゴタがまだ不審な面持ちを浮かべたまま作業員の間を歩いている時、ルナがぽつりと言った。


「そんなことはどうでもいい。あたしの目的は悪魔を説得して追い払うことだ」


「めんどくさいよ。悪魔を説得するなんてさ」


 ルナが言った。


「お前はやらないだろ。あたしがやるんだよ」


「君が出来ることなのかな。口下手な君が」


 ルナはイヤミに繰り返した。


「下手じゃねえよ。それにやるしかないだろ。あんな輩に渡せるものか」


「だってダニカさんは君の知り合いでも何でもないだろ。だいたいまだ顔すら知らないんだ」


 ルナが言った。確かに正論だ。


「まあ……そりゃそうだが」


「なら、無視しちゃえばいいだろ。何で助けようとするのだろう。これまでもそんな例が多々あった。博愛主義者なのかもね君は」


 ルナは笑った。


「お前だって助けようとしたじゃねえかよ」


 ズデンカは腹が立った。だがルナに対してと言うよりも自分に、だろう。


 助けようとしたことは事実だからだ。 


 ルナが何か言い始める前に、ブラゴダがやってきた。


「こちらがダニカです」


 赤毛で三つ編みの小太りの女。顔にはそばかすが浮いていた。まだ若くはあるようだ。


 決して美しくはない。


「同じ名前のやつがこの工場にはいないか?」


 ズデンカは念のために訊いた。


「いえ、ダニカはうちには一人だけです。過去にもいたことはありませんよ」


 ブラゴダは言った。


「はあ」


 ズデンカは自分の黒い髪を掻き上げた。


 久しぶりにそんなことをやった気がする。


「あたしはズデンカだ。少し話があるので尾いてきてくれんか」


できるだけ優しく話し掛けた。


「はい」


おとなしい性格らしい。


――まあ大概の女はそうだ。


 とくに若いときは大人しく従順になるように周りから教え込まれる。


 ズデンカですら、昔はそうだった。


――今のようにやさぐれるまで何年かかったか。


 故郷に帰って感傷的になってしまっているのだろう。ポツポツと昔のことを思いだしてしまっている。


 部屋の隅のほとんど誰も居ないような暗がりへと連れていって話し始めた。


「なんつうか……、そのなんつうか、な。たいそう偉いやつがいる。そいつがお前を見初めたというらしい」


「え!」


 ダニカは大口を開けていた。


「そりゃ驚くだろう。だがあたしは賛成してない。そいつは悪魔だからだ」


「悪……魔」


 途端にダニカの顔が青ざめた。


 だがズデンカは臆さず続ける。


「ウァサゴという。お前を地獄につれていきたいらしい」


 ダニカが後ろに倒れようとした。ズデンカが事前に察して物凄い勢いで後ろに回り込みその身体を受け止めた。


 普通このような話を訊かされたら、気絶しない方がおかしい。


「助けてやるよ。何とかしてもな」


 ズデンカは言った。だがこの会話もウァサゴは聞いているだろう。さっきのルナとの会話もそうだ。後から文句を付けられるのは間違いない。


――構うものか。いざとなったら悪魔とだって勝負をしてやるよ。


「あたしが引き受けた。全部あたしの責任だ」


 ズデンカは繰り返した。

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