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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十三話 悪魔の恋(4)

「馬鹿馬鹿しい、誰に恋したんだ?」


 だが取り敢えず訊いてみることにした。


「どうやらこの工場の作業員ってことだ。妻にしたいらしいぞ」


 モラクスは小声で答えた。


「馬鹿らしい」


 ズデンカは周囲で作業に熱中している女たちを見詰めた。


――顔をいちいち見たわけではないがこの中に美人がいてもおかしくないだろうな。


とまで考えたところで、美人だから恋に落ちるわけでもないかと思い直した。


 ましてやウァサゴは人ならぬ、悪魔だ。


 どんな容貌を好きになるか知れたものではない。


 恋をしてどうしようというのか? まさか地獄まで引きずり込む気なのか?


 そう考えるとズデンカはあまり良い思いがしなかった。


――あたしの母親と同じだな。


 ズデンカは思った。


 名前も知らない。生まれた時にはもう死んでいたのだから。


 だが確実に、不死者となってからでさえ、この身体は母親譲りのものだ。


 それは認めざるをえない。


 聞いた話だが、ゴルシャは奴隷市で母親を買ったらしい。


 その顔容かおかたちちが麗しかったからだと言われている。 


 『見初めた』。そうゴルシャは語っていた。


――あたしの母親は『見初め』られたのだ。


 地獄の大悪魔ウァサゴも作業員を『見初め』たのだろう。


 なぜだかズデンカはイライラする。


 そういう扱いをされていることに対して。


――あたしのことじゃねえのに。


 前、超男性を名乗るやつにプロポーズされた時虫酸が走ったものだが、そちらの方はまだ耐えられる。


 自分に向けてだからだ。


――他人が眼の前でそうなっているのは、気分が悪い。


 だが、ズデンカと言えど大悪魔のウァサゴをすぐに倒せるとは思えない。


――つうか、戦いたくなくねえよ。


 もしこの工場で暴れたりしたら多くの人が死ぬことになる。


 絶対にあってはならないことだ。


――もう少し話を訊いてみよう。


「続き」


 モラクスを急かした。


「地上を見物していたとき、偶然この工場が眼に止まり、帽子職人の一人が好きになったらしい。しばし、注目していると名前を知ることができた。ダニカだ。彼女を殊更に気に入り、ぜひ地獄に連れ帰りたいと思う。無理にでも連れていきたいが本人と話をするつもりだと」


 モラクスはいやそうに口にした。


「お前ら悪魔が人間の前に姿を現しちゃいけないだろ」


 ズデンカは言った。


「やりようは幾らでもあると言ってるぞ。『儂は大悪魔だからな』だとよ」


「いい。あたしが呼んでやる」


 ズデンカは親指で自分を差しながらが受け合った。


「お前は誰かと聞いてるぞ」


「あたしはズデンカだ。吸血鬼ヴルダラクと言えばわかるだろ」


「下級種に用はないそうだ。まあこれは俺も同意見だがな」


 モラクスが言った。


「下級種だろうがなんだろうが、大悪魔様よりは動きやすい。話もしやすい。性も同じだからな。そりゃお前らでも姿だけは女には変われるだろ。だが、元からそうなあたしなら話は通しやすい」


 ズデンカは続けた。ルナはニヤニヤしながら、黙っている。


 普段、こう言うやりとりはルナがやるのだったが任せる気らしい。


――ケッ。


 内心毒突きはしたがこれは自分で選んだことだ。


 ズデンカはブラゴタの元まで歩いて行った。

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