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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十三話 悪魔の恋(3)

「何が臭うんだ?」


 ズデンカは工場の入り口まで袋を提げていき、口を開けて中からモラクスを取り出した。


「あの工場だ! そこらじゅう、臭い! 臭い!」


 ズデンカは考えた。


 自分たちが行くところどこへでも現れる謎の本、『鐘楼の悪魔』の存在を、だ。


 その本はどうやら悪魔の力が封じ込められているらしく、モラクスはその臭いを嗅ぐことが出来るようだ。


 それは後から知ったので結果論ではあるが、使い勝手のいい火災報知機の役割込みで連れてきていたという側面もある。


「誰かが『鐘楼の悪魔』を持っているのか?」


「いや、おそらくは違うだろう。あの本は傍にいるだけで怖気が立つような気分になるが」


「じゃあ何だ?」


 ズデンカは不思議に思った。


「おそらく俺と悪魔の臭いだ。それも古い奴だ。古ければ古いほど臭いからな」


「そういうものか」


「そういうもんだ」


 モラクスは黙った。


「ならお前なら話が早い。出て来て貰ってくれ。工場内で暴れられたら困る」


「何で俺が」


 モラクスは不機嫌な声を漏らした。


「お前しかできるやつがいないからだ。もし、出来ないなら引き裂くぞ」


 ズデンカは冷酷に言った。


「……」


 モラクスはまた黙った。


 ズデンカはそれを袋へしまう。


 工場の中へ戻った。


「やっと帰ってきた」


 ルナが微笑んだ。


「お前、話がある」


 ズデンカは耳打ちする。


「なぁに?」


「モラクスの仲間が工場の中にいるという話だぞ」


「それはめでたい!」


 ルナが声を張り上げた。


「ちょっと、お前……なにがめでたいんだよ」


 ズデンカはそれを押さえようとする。


「だってモラクスが友達と再会できそうなんだからこんな嬉しいことはないじゃないか」


 ルナが言った。


「再会したくもないが」


 袋の中で呟く声が聴き取れた。


「ふむ。たぶんその友達は天井にいるんじゃないかな」


 ルナが上を指差した。


 ズデンカには何も見えなかった。


 いや、おそらくはルナもだろう。にも関わらず、何かの気配を感じ取ったのだ。


――あたしですら、気付けなかったのに……。


 だが袋の中でモラクスが震えていた。


「あいつだ……あいつだ……ウァサゴ」


 ウァサゴは悪魔の中でもかなりの高位だ。ズデンカもその名前は以前から知っていたが地獄にいると思っていたので、まさか現世に現れるとは思いもしなかった。


――不死者は消滅後は地獄行きが確定してるからその際に面通しを楽しみにしていたが……。


「姿を消してるな」


「うん、それも身体のほんの一部……おそらく眼とか手とかだろう。全部が現れている訳じゃない」


 ルナが説明する。


 だが、客観的には天井には何も見えないのだ。


「やつ……俺の頭の中に……語り掛けてくる。『モラクス、モラクス、なぜそのような醜い姿になりはてているのだ』と」


袋の中から声が聞こえた。悪魔同士無言で言葉が交わせるようだ。


「何て答える?」


 ズデンカは訊いた。


「『仕方なく』と答えてみた……そしたら笑い声。畜生、畜生。俺を笑っていやがる」


悔しそうな声だった。


「なんか質問しろ」


 ズデンカは急かした。


「『じゃあなぜ貴様はここにいるんだ』って聞いた……『我が輩は恋をしたのだ』とウァサゴのやつ……なんだ色気付きやがって……」


 悪魔の恋。


 そんなものがこの世にありうるのかと考えると、ズデンカは失笑してしまった。

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