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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十二話 仲間(7)

 男を信じないズデンカはこのブラゴタの発言もどこまで信じていいか怪しんではいた。


――この人の良さそうな笑みもどこまで信じられるか。こっそり住所を聞いて後でつけ回したりするやつもいるしな。


 過去の経験上、そう考えてしまうのだったが、今はそれよりアグニシュカたちと少しでも打ち解けたかった。


「別にそれぐらいですよ。私がエルヴィラさまの指を手当てした。そこから色々話すようになって……普通です。別にズデンカさまにお話出来るようなことは」


「おう、やっと名前で呼んだな」


 ズデンカは鼻で笑った。


「はっ」


 アグニシュカは思わず口を押さえていた。


「別にいいんだよ。様もいらねえからな。あたしはお前がなぜそんなに敵意を向けてくるのか謎なだけだ」


「異邦人だからです」 


 アグニシュカはこぼした。


「異邦人だと? よく考えてみろ。お前もこの国の生まれだってエルヴィラから聞いたぞ。あたしもそうだ」


「この国で生まれたといえ、父母ともにヴィトカツイです。あなたとは違う」


 アグニシュカは笑みを一切浮かべないままで言った。


「ここで育ったんだろ。じゃあ似たようなもんだ。人種は関係ねえ。それにあたしは……」


 ズデンカがそう言った瞬間。


 大きくトラックが揺れた。


「なんか飛んでくるよ!」


 ずっと外の様子を覗ってきたルナが叫ぶ。


 無数の砂や岩が飛礫つぶてとなって飛んできた。


 トラックの周りにはすでにバリアが張られていて弾き返された。


――やつらだ。


 ハロスと大蟻喰だった。二人が草原を移動しながら組んずほぐれつもつれ合っていたのだ。


「あれはステラかぁ。これまたすごい恰好だね」


 ルナは暢気そうに言った。


――一目で見抜くお前がすげえよ。


 ズデンカは心の中で突っ込んだ。


 ともあれ、不死者でないはずの大蟻喰が対等に渡り合えているということに驚きしか感じられなかった。


「ともかく、何とかしてよ」


 ルナがさも当然のかのように言った。


「わたしが行きましょうか?」


 カミーユが手を上げる。


「一つしかない命だ。大事にしろ。できれば後ろから掩護を頼む!」


「はい」


 ズデンカはまたこの展開かと思いながらため息を吐いてトラックを飛び下りた。


 靴の裏が擦れて磨り減ったが、構わず体勢を整え、ハロスと大蟻喰の方へ走っていく。


「お前らいい加減にしろ!」


 ズデンカは大蟻喰に感謝してはいた。だが自分の仲間に危険が及びそうになった以上止めなければならない。


 合挽肉のように絡まり合っていた両者は、ただちに離れる。


「なんだよいきなりいなくなって!」


 ズデンカの横に立った大蟻喰は野太い声で叫んだ。


「うるせえ」


 ズデンカは耳に栓をする真似をした。


「あたしらはまずルナを守らないといけないだろ。そこは一致するはずだ」


 とりあえず、共通の利害を捜すことにした。


「うん……そうだよね」


 大蟻喰は妙にしおらしく応じた。


「ズデンカ!」


 大音声でハロスは叫んだ。


「お前に尾いていく気はない! あたしには仲間がいる」


 ズデンカはハロスを睨み付け叫んだ。


「じゃあ、死ね!」


 不可能なことをハロスは叫び返す。


 物凄い勢いで驀進してきた。


「考えてることは大方同じだろう。やるぜ」


 ズデンカは大蟻喰の巨軀を見上げて視線を合わせた。


「わかってるよ」


 大蟻喰は応じた。

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