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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十二話 仲間(5)

「どうしたのー?」


 ズデンカが必死で鞄を担いでいると、ルナの暢気な声が聞こえた。


 襟を掴んで、ズデンカは無理矢理ルナを引き寄せた。


「うわぁ! 何するの!」


 ルナはあからさまに驚いている。


「お前には話しておくが、昔の知り合いと出会った。あたしを仲間に引き入れたいらしい。願いさげなんで逃げてきた」


 ズデンカはルナのみみたぶを引っ張って話し掛ける。


「へえ。もしかして、昔の女?」


 ルナがからかってきた。


「お前……! ふざけんな」


 ズデンカは怒鳴りそうになった。


 ルナは耳を押さえた。


「うるさー」


「今こうしてる間にも迫ってきてるんだぞ」


 ズデンカは焦り始めた。


「うーん、まあめんどくさい戦いは避けたいしね。君的にはどうするつもり?」


 ルナは訊いた。


「引き返すべきかと」


「それはだめだよ。君の故郷に行くのが旅の目的だろ?」


「そんなことも言ってられない」


 ズデンカはあまり強く返せなかった。自分が原因だと思っていたからだ。


「道は他に幾らでもあるよ。できるなら馬車とかあとそうだ、自動車でもいい」


「自動車かよ」


 ズデンカは驚いた。最新のテクノロジーはルナがあまり使いたがらないと理解していたからだ。


「拾えたなら、だけどね。ゆっくり旅を楽しみたいけど、そうもいかないからなあ」


「拾うっても言われてもな」


 ズデンカはあたりを見回した。


 平原のまま変わりない。


 当たり前だ。


 さっきから一歩も進んでいないのだから。


 アグニシュカとエルヴィラを呼んで五人集まるとすぐに出発した。


 方向は南、やはりズデンカの故郷を目指してだ。


 足どりは案外速かった。皆休んで体調を整え直したからだろう。


 動き続けているズデンカは疲れることがない。


 もちろん、精神的な疲れはひしひしと感じ始めていたが。


 道を辿り続けると遠くに藁が積まれた一台のトラックが止まっていることに気付いた。


 しかも台の上には人が十人ほど乗れるだけの空きがあるではないか。


――やはりルナ、なにか持ってるな。


 言ったことが現実になるとは能力を使ったのではないかとすら疑われた。


「おーい!」


 ルナは手を振ってトラックへ駆けよって行った。


「どうされました。そんな大勢で」


 台の前に立って禿げた男が言った。


「旅をしてるんですが皆足が疲れちゃって載せていって頂きたいんです。もちろん、お金は払いますよ」


「いいですよ」


 男は快く言った。


「わたしはルナ・ペルッツと申します」


「ペルッツさま。あの高名な! 私はブラゴタと申します。家にも『綺譚集』のヴィトカツイ語の翻訳がございますよ! 家族で楽しませて頂いています。もちろんもちろん、乗せて差し上げます。お金など要りません」


 ブラゴタはお辞儀をした。


「それは話が早い! お言葉に甘えさせて貰いましょう」


 五人が藁の間に腰掛けると、トラックは走り出した。


「あのような男など……」


 アグニシュカは三角座りになってぶつぶつと文句を呟いていた。


「そんなこと言っちゃだめですよ! 私にとっては貴重な読者です」


 ルナが言った。既にパイプを吹かし始めている。


「でも……信用なりません」


「アグニシュカさんは疑い深いですねえ。最初は誰だってそうですよ。次第に親しくなっていくものです。わたしともメイドとも普通に話せてるじゃないですか」


 ルナはウインクした。さすがに馴れていると見えて上手い。


 ズデンカは学ばなければいけないと思った。

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