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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十二話 仲間(4)

 ズデンカの身長を遙かに凌ぐ、赤い膚の巨人が姿を現したのだ。


「いろんなやつの筋肉を繋ぎ合わせたんだ」


 太くなった大蟻喰の声が響く。


 巨人はハロスの前に立ち塞がった。


――悪趣味なやつだ。


 ズデンカはそう思いはしたが、心から楽しんでいられない状況だ。


「一人で何とかやっててくれ!」


「あ! ちょっと待てよズデ公!」


 大蟻喰とは言え、しんがりを任せるのは悪いような気がしてきて、何とも居心地の悪い気分になった。


 だが、ルナたちの方が心配だった。


「へえ、面白い。繋いだと言っても所詮は人間だろ。俺には勝てない!」


 後ろからハロスの声が聞こえる。


 殴打の音と地響きが続く。戦いが始まったのだ。


 ズデンカは速度を早めることで後悔を払い去った。


 やがて草木もない平原が見えてきた。ズデンカは土地勘については自らをたのむものがあった。


 ずいぶん前に通った地域なのに変化がなかったから思っていたよりも早く進むことが出来た。


「おーい!」


 ルナが元気そうにピョンピョン跳ねながら手を振っている。


「エルヴィラはどこだ?」


 ズデンカはぶっきらぼうに応じたが安心していた。


「さっきから黒松の木陰で休んでるよ。君が連れていったんだろ」


――何もないと良いが。


 ズデンカが黒松へ戻るとズデンカは急いで革袋を差し出した。


「ありがとうございます。でも、さっき運良く行商の人が通りかかって……アグニシュカが水を買ったのを飲みました」


 革袋を受け取りながらエルヴィラは言った。


 ズデンカは少し悔しかった。


 エルヴィラの息遣いも落ち着いていて、顔色も良好そうだ。


「あ……でもそんなに量はなかったので、ありがたいです!」


 エルヴィラはズデンカの様子を見て付け加えた。


――行商のことだ。水は高く売るに違いねえ。アグニシュカは足元を見られたのだろう。


 ズデンカは皮肉っぽく考えてしまっていた。


「アグニシュカはどこ行った?」


「木の実とか……何か食べるものがないかと……あ!」


 とエルヴィラは立ち上がって手を振った。


――へえ、大したもんだな。


 アグニシュカの手からは兎がぶら下げられていた。ナイフで喉を切ってその血が溢れ出ている。


 ズデンカはその臭いを遠くからでも嗅いだ。


 近づくとアグニシュカが睨んできた。


「エルヴィラさまに近付かないでくださいますか」


「お言葉だがな。さっきはお前じゃ何も出来なかっただろ? この黒松を探し当てるのだった半日かかったはずだ。エルヴィラはその間に干上がってたぞ」


 ズデンカは言った。少し自慢げに聞こえるのを羞じながら。


「それは……」


 アグニシュカは唇を噛んだ。


「協力出来るところは協力しよう。兎はどうやって捕まえた?」


 ズデンカは訊いた。


「普通に……追いかけて」


「なるほど、すごいじゃねえか。料理は出来るか」


「多少は……」


 アグニシュカは目を逸らしている。


「大したもんは出来ねえがあたしが教えてやる。見習えよ。だが、ここは危険だ。出来るだけ人通りの多い道を進まないといけねえ。エルヴィラの命に関わるかもしれん。さっさと行って守ってやりな」


 アグニシュカは無言で歩き出した。


 ズデンカは荷物をまとめて置いた地点まで戻った。


 ルナがちゃんと見張りをしてくれるか不安だったが案の定、放り出してどこかへ行ってしまっていた。


「あ、ズデンカさん。お疲れさまです!」


 ずっと立ち続けていたカミーユが礼をする。


「ここにいるとまずいぞ。さっさと移動する。ルナの奴、またどっかいきやがって」


「何かあったんですか?」


 カミーユは不思議そうに訊いた。


「スワスティカの手先と出会った」


 ズデンカは嘘を吐いた。


 自分が原因でお前たちが殺されるかもしれないなど、簡単には口にできなかったからだ。

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