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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十一話 踊る一寸法師(11)

 フランツは松明を高く捧げながら片手で血染めの刀を持ち、小人たちに近付いていく。


 小人たちは獰猛なうなり声を上げて飛びかかってくる。


「さすが鍛え上げてますね。いかにも重そうな『薔薇王』を軽々と!」


 オドラデクは褒めたら得るように声を掛けた。


 フランツはいつも通り無視して獲物に斬り掛かった。


 斧が刀を受け止める。


 フランツは右手に力を入れ斧頭へ刃を突き通した。たちまちざっくりと小人を一刀両断する。


 他の二名が打ちかかってきたが、フランツは軽く避けた。


 体勢を立て直し片手に持った刃を更に一閃させてもう一人の頭を切り落とした。


 残る小人は恐れをなしたのか叫んで家の中に引っ込んでしまった。 


――今だ!


 フランツは手に持った松明を茅葺きの屋根に押し当てた。


 たちまち炎は燃え移った。


 屋根から吹き上がる火が瞬く間に建物へ伝わる。


 阿鼻叫喚の声が満ち広がった。


 何人か飛び出してくる小人立ちに向かって松明を投げつけるとフランツは無言で斬った。


 両手を使えるので、その動きはなお一層滑らかになった。


「お前らはスワスティカの協力者だ。殺された同胞の痛み思い知れ!」


 フランツは叫んでいた。


 オドラデクはにやにやと笑んだまま、ファキイルも表情を歪めることはない。


 小人たちの家は劫火に包まれた。


 炎の中から女子供たちを引き連れたアメリーゴが姿を現した。


「オディロンさん……いや、おそらくコレは偽名でしょうね。あなたはスワスティカ猟人ハンターに違いはないはずだ」


 セストの返り血を浴びたアメリーゴは落ち着いた口調で話した。


「そしてそこにいるカルロはあなたの手下でしょう」


「ぼくは手下じゃないですよ」


 オドラデクはそう言いながら元の姿に戻った。


「あなた方は僕たちの平穏な生活を滅ぼしにやってきた」


 それは無視してアメリーゴは続ける。


「そうだ。マンチーノは死んだとしてもその手下を許すわけがないだろう」


「なるほど、どちらにしても話し合って解決という段階には既にないわけだ。なら、お願いがあります」


「お前の願いなど……」


「女性と子供たちは助けて貰いたいんです何人かはあなたに斬られましたが生き残っている者たちもいる。僕は未来に繋ぎたいんです」


「見逃すわけがないだろう。お前らに何人のシエラフィータ族が命を奪われた? 俺はこの眼で見た」


 フランツは答えた。


「仕方がない。なら戦わなくちゃいけません。一家の大黒柱としてね」


 アメリーゴは両手の指に何かを嵌めた。


 鉄の、輪っか。拳闘士が殴り合う時に使うものだった。


「フランツさん、そいつ強いですよ」


 オドラデクがそう言うと同時にアメリーゴが走り出した。


 フランツも俊敏な動きで間合いを詰める。


 斬った。


 拳に弾かれる。アメリーゴは手に嵌めた輪だけで刃を退けたのだ。


「ぐっ!」


 腹に激しい一撃が叩き込まれた。自身の身体は凄まじい勢い飛ばされるのをフランツは感じた。


「フランツさぁん」


 オドラデクは糸を放ってクッションを作り出した。


 フランツは受け止められる。


「がはっ」


 鉄分の臭い。血が口の中で溢れたのだ。


 想像以上に骨が軋り、身を起こすことが出来ない。


「フランツ、任せてくれ」


 ファキイルが宙を舞い小人の前に降りたった。


「あなたは……?」


 アメリーゴは驚きの面持ちになった。


「我が名はファキイル。フランツの友だ。お前が何者かは知らぬ。だが友を苦しめる者は許さない」


 ファキイルが手を振った。


 風が起こる。


 アメリーゴが反撃をしようとする前にその手足は胴体から引き剥がされ、首は逆さに捩れ切れて芝生の上に落ちた。


 小人は死んだのだ。

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