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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第五話 八本脚の蝶(5)

 その人は蝶が好きでした。


 名前はアルフレッド。私より一つ年上でこの家の隣に住んでいたから、幼なじみとして育ちました。


 二人は許嫁同然でした。私の父は骨董商でしたので、アルフレッドに継いで貰いたかったんです。家族ぐるみの付き合いがありました。


 この家も一昔前は海外から集めた珍しい品物でいっぱいだったんですよ。この地域も今では貧民街の一部になっていますが、戦争前はそうじゃなかったんです。


「女には骨董の価値が分からんからな」


 父はいつもそればかり繰り返していました。趣味で針金細工を作っていたのですが、そのやり方も教えてくれませんでした。


 でも、盗み見ながらこっそり真似ましたけどね。


 今曲がりなりにも蝶を作れているのはこの時作り方をちゃんと覚えていたからです。


 アルフレッドとはいつも一緒でした。物心付いた頃から二人で一緒に蝶を獲りに駆け回っていました。


 近くの林の中で日がとっぷり暮れるまで、探し回ったものです。


 私たちの国の季候では大きな虫はなかなか育ちません。


 だから大きい蝶を見付けると子供心に嬉しい気分になるのでした。


「マルセルはほんとに蝶捕りが上手いな」


 アルフレッドはいつも言っていました。


 小さい時は私の方が身体も大きくて、走りも速かったんです。だから網を持って先に走って、勢いよく振り下ろして捕まえていました。


 今の私を見たら意外に思われるかも知れませんけどね。


 あの頃は本当に毎日が楽しかった。


「アルフレッドもじきに上手くなるよ」


 私は自然と励ましていました。


「うん、そうだね」


 でも、アルフレッドは悔しそうでした。私は彼が親から男の子だから、私をリードしてあげないといけない、とお説教をされてるところ聞いたことがあります。


「いつか絶対捕ってやるぜ!」


 アルフレッドは断言しました。


 いつしか彼は身体を鍛え始め、運動もするようになりました。私と離れて男の子たちと連み仲良くするようになりました。


「遊ぼうよ」


 と誘っても、


「忙しいから」


 と断られてしまうようになりました。


 私はもっとアルフレッドと遊びたかった。二人きりで。でも、彼は蝶を捕るためにいろいろ始めたのに、いつしか蝶のことはどうでもよくなっていきました。


「そんな女の子みたいな趣味」


 って馬鹿にされていたみたいです。


「お前と遊んでいると、色々言われるんだよ」


 アルフレッドは私に面と向かって告げました。


「だから会うのは二人だけの時な」


 私はアルフレッドがとても好きでした。だから、会う時が限られてしまうのはとても寂しかった。


 時間が無限にあるように思えた子供時代だったのに。


 学校に進む頃になると二人はもうほとんど話さなくなっていました。


 もうアルフレッドはすっかり身体も大きくなって、私よりも高くなっていました。


 エロイーズという彼女も出来たようで、その娘と一緒にいることが増えました。

 豊かな栗色の髪の毛を持つ、びっくりするほど綺麗な人でした。


 嫉妬はしませんでしたよ。もうべつの世界の人間になってしまったようで。


 私は一人で蝶を追いかけることが増えました。

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