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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十一話 踊る一寸法師(5)

――威嚇しても良いが、余裕を見せた方がこいつらの上に支配的な地位を築けるか。


 もちろん築くのは情報を集めるためであることは言うまでもない。


 不機嫌ではあったが、そう考えられる心の余裕は保っていた。


「なるほど、確かに俺はよそ者だ。お前らにあれこれ言う立場じゃないな」


 フランツは認めた。


「そうです。僕たちはもうスワスティカとは関係がありません。あのような連中は唾棄すべき存在だと思っています。あなたが僕らに何をお求めになっているかはわかりませんが、そのことに関しては資することがないと思いますよ」


 フランツの本来の目的を見透かされていたようだ。カルロとの会話を盗み聞きしていたのか、それとも他の小人たちからの又聞きなのか、無視出来ない情報網を構築していることがわかる。


――こいつは厄介だな。


「フランツさん、もう帰りませんかぁ」


 オドラデクもそれを察したのかめんどくさそうに呟く。


「いや、まだだ」


 フランツは頑なに拒んだ。ここまで来た以上、手ぶらで帰るわけにはいかない。


「だがマンチーノについてお前らは詳しく知っているだろう。それについては否定できないはずだ。なら何か話せ」


「……中でお願いできますか?」


 アメリーゴが静かに言った。


「わかった」


 三人は家の中に上がり込んだ。


 思っていたより室内は広かった。天井の梁はかなり遠かった。


「うわぁ。いい家ですねえ。小人の癖にぃ」


 家具調度は質素でこそあったが綺麗に整えられていた。小人の女たちと、普通の五、六歳と見える子供たちの姿が見えた。


――この子たちはじきに親の身長を遙かに追い抜くだろう。


 フランツは思った。


 来客用に大きな椅子が幾つか設けられていた。フランツはそこに坐る。もちろん、その前に何か仕掛けがされていないか入念に調べてからだが。


 オドラデクはフランツが調べ終わるのも待たずに坐った。


 ファキイルは立ったままだ。


「さあ、話して貰おうか」


 フランスは足を組んで言った。


「マンチーノさまには感謝しています」


 アメリーゴが子供用の椅子に坐りながら言った。


「なぜだ。そんな身体にされているんだぞ」


 フランツは驚きながら訊いた。


「生きる可能性と、生活の糧を与えていただいたからです」


 アメリーゴは訊いた。


「どういう意味だ?」


「僕は貧しい家に生まれました。もちろんそれは当時知ることはできなかったんですが後で色々調べましてね。十人兄弟いましたが八人は十代になる前に死亡、残りの一人――兄ですがは最近亡くなって後はもう残っていません。親はもうとっくに家を捨て去ってどこかへ消えていましたよ。結局、生き残れたのは僕一人だけでした。あの家にいたら他の兄弟と同じ運命を辿っていたでしょう。つまり、マンチーノさまは僕に生きる可能性を与えてくださったと言うわけです。生活の糧というのは長い間養ってくださった恩を差します。カルロを含めぼくたちのほとんどは口減らしのために売り払われた経歴を持っています」


 穏やかにアメリーゴは述べた。


「カルロの話によればマンチーノは己の小人の身体を憎み、他の人間に同じ境遇に陥って欲しくてやっていたそうじゃないか。そんなやつに感謝しても仕方ないだろ」


 フランツは言った。


「いえ、それはもちろん知っています。にも関わらず、僕はマンチーノさまに感謝しています。口先では良いことを言っていても何もやってくれない人なんてたくさんいる。マンチーノさまの動機は世間的に見れば不純だったかも知れませんが、僕らは助けられた。これは事実です」


 フランツはしばし言い返せなかった。

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