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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第四十一話 踊る一寸法師(1)

――ランドルフィ王国中部パヴェーゼ


 熱が引いたスワスティカ猟人ハンターフランツ・シュルツは街を歩いてみたく思った。


 一人で放置しておくと厄介だと判断したオドラデクを連れて、市場に乗り出した。

 昼頃なので人は多く群れている。


 日除けのテントの下に井然せいぜんと並べられた青果類や鮮魚の臭いが混ざって鼻を衝く。


「良い匂いですねえ」


 オドラデクがどういう嗅覚をしているのかフランツは疑問だった。


「皆で買い物なんて始めてだな」


 少女に身を窶した犬狼神ファキイルがゆっくり尾いてくる。


 いつも通り無表情ながらリラックスしている様子だった。


 言われればその通りだ。今まで買い物に行く場合、誰か一人が担当するのが普通だった。


――三人でなど、まるで家族みたいじゃないか。


 フランツは考えた。


 これまでも三人が家族に模されることは何度もあった。


――知らず知らずのうちに、そう言う意識がすり込まれている。


 全く偶然から出会った三人なのに、今では疑似家族。


 フランツは嫌になった。 


 いざというときにはファキイルを斬らなければならなくなるかも知れない。


 とても太刀打ちは出来なそうだが。


 試しに戦ってみたが、オドラデクの協力あって髪を一本切るのが精一杯だった。


 全力でやったら負けるのは分かりきっている。


 オドラデクの方はどうだろう。本気でやりやったことがないからわからないが、フランツと互角あるいはそれ以上の力を持っているのではないだろうか。勝利できたとして、二度と動き回ることは不可能な身体になるかも知れない。


 フランツはそんな日が来ないことを願った。


 オドラデクは早速値切りを始めていた。


「えええ、これぇ、この林檎、よく見てくださいよ。ちょっと端が黒ずんでるでしょ? えっ、そんなことないって、お婆さん、目が悪いのでは?」


「みっともないから止めておけ」


 フランツはその横に立った。


「せっかく安く買えそうなのにぃ」


 渋い顔で二人を眺めやる老婆。


「ほら」


 フランツは貼られている通りの額を払った。老婆はさも当然と言うかのようにそれを受け取って追い払うしぐさを見せた。


「ちょっとぉ、ほんと生きるの下手ですよねフランツさんは!」


 女性に変じているオドラデクは腰に手を当てて顔を突き出していった。


 一端の恋愛小説のヒロインのようだ。


「行くぞ」


 フランツはそれを無視して歩き出した。


「フランツ、肉は食べてるか」


 後ろからファキイルが訊いた。


「長いこと食べてないな」


「それは駄目だ。我も肉食べたくなった」


 ファキイルはこう見えて色々気を使ってくれる。


 旅先で助けられたことが何回もあった。いざとなっては敵対を恐れないフランツも、そのことに関しては感謝していた。


「よし、今日は肉を思いっきり食おう。幾らでも金は出す」


「もうフランツさんそんな使っちゃあ! お魚で良いじゃあありませんかぁ」


 オドラデクがドタドタ歩いてきた。いつになくケチだ。


――普段なら幾らでも豪遊するのに。俺が腹一杯になるのが許せんのか?


 そう考えるとフランツはつくづく腹が立った。


 と、ここで。


 ある単語が市場の雑踏の中で聞こえた。


 だが、猟人ハンターであるフランツはその言葉を聞き漏らさない。


 ブラバンツィオ・マンチーノ。


 死人の名前だった。

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