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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十九話 超男性(7)

――あたし一人じゃいつまでも押し問答か、実力行使するしかなかっただろう。


 ズデンカはヴィトルドを睨み付けながら思った。


「ううむ」


 ヴィトルドは腕を組んで黙った。


「それよか、お前は何でこんなとこにいるんだ? 人助けはどうした」


 ズデンカは話を変えることにした。


「ああ、それをすっかり忘れていた! この汽車は大変なことになるのだ。私は常人を離れた視力を持っているから、先のものがくっきりと見通せるのでな」


 とヴィトルドは己の目に指差しながら言った。


「なんだと!」


 ズデンカは驚いて立ち上がり、


「それを早く言え!」


 大声で怒鳴った。


「すまんすまん。こちらの話に熱心になってしまってな。まだ時間的には余裕があるからな」


 ヴィトルドは初めて軽く頭を下げて謝る素振りを見せた。 


「余裕?」


「一時間ぐらい先だ。俺の走りなら、十秒も経たずに行くことが出来るがな」


 ヴィトルドは自慢げに言った。


「今すぐ解決しろ!」


 ズデンカは言った。


 汽車の危機――それはルナとカミーユの危機でもある。


 ズデンカは焦った。


「早速案内しろ」


 ズデンカは歩き出した。


「ああ」


 ヴィトルドはも尾いてきた。


 もちろん、かなりの距離を取るようにズデンカは注意してきた。あんな話を訊いた後だと、何か後ろからしてくるかも知れないと思えたからだ。


 ズデンカもヴィトルドほどではなくとも相手の動きを先回りして察知することが出来る。


 だが、ヴィトルドは特に何もしてこなかった。


 外に出るとすぐに走り出したが、並んでくる。


「はっはっは。俺が本気を出せば、あなたなど幾らでも抜かせられる」


 その言い草がズデンカは気持ちが悪かった。


 速度を早める。


 だがその度にヴィトルドは並ぼうとしてきた。


――鬱陶しい。


 ズデンカはまた心の中で繰り返した。


「先には何があるんだ?」


「ある種の障碍物、とでも言えば良いかな」


ヴィトルドは暈かした言い方をした。


「はぁ? 教えやがれ!」


 ズデンカはドスを利かせて詰問した。


「自分で見た方が良いだろ?」


 とうとう、駈け続けた二人は列車を追い越した。


 今まで乗っていたものが遙か後方を走っているのは不思議な気分がする。


 やがて、山肌を開いて穿たれた、長く奥まで暗い隧道トンネルが目の前に見えてきた。


「あの先か?」


 ズデンカは問うた。


「そうだ」


 闇の中はむしろズデンカの独擅場どくせんじょうだ。


 隧道の中に入ると途端に動きが以前より機敏に滑らかになるのが自分でもわかった。


 ヴィトルドはそのズデンカの変化に戸惑っているようだった。こちらは流石に人間と言うか、闇に多少は警戒を払っているように見える。


 それでも、目が良いというのは嘘でないようで、


 やがて、ズデンカはトンネルの出口が塞がっていることに気付いた。


 何者かによって山が切り崩され、岩石が落とされたかたちだ。


――大変だ。


 汽車がこのまま滑り込んだら、激突してしまう。


 ズデンカは急いでそこに近付き、岩を一つづつ掴んで、退け始めた。


「お前も手伝え」


 ズデンカはヴィトルドを急かす。


「ふふふ、大丈夫だよズデンカさん。少しだけそこから遠くへ移動してくれないかい?」


 ヴィトルドは自慢げに言って、立ち止まり、膝をパンパンと叩きながら、身構えるポーズをした。


「はぁ?」


 ズデンカはそう言いながらも、このまま一つづつ退けていっても無意味だと考え直し、出口から離れた。


すると、ヴィトルドは走り出した。

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