表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

392/1238

第三十八話 人魚の嘆き(2)

 十五の頃と言えばもう五、六年は前になるか。


 俺は当時、スワスティカ猟人としての訓練を受け始めたところだった。


 もうその頃にはスワスティカを残らず狩り尽くすことを目標に生きていたからな。


 理由か?


 一概に説明は難しいな。俺の生い立ちをすべて話さなければいけなくなる。


 お前に話す必要もないしな。


 とにかく、スワスティカを狩り尽くす決意を固めた俺は、後から止めたりなどしないように、はっきりしたかたちとして誓いの証拠を何か残しておきたかった。


 俺は酒も煙草もやらんし、悪所へ出向いたことはない。


 それでも船乗りなどの間で、恋人の名前を刺青を刻む風習があるのは知っていた。


 実際猟人の先輩の中でも刺青をしているやつは何人かいたしな。


 それが普通な環境だった。


 なぜ、先輩の真似はことごとく嫌った俺がそれだけやろうとしたのかはわからない。


 単純な遊興とは違って、自分を追い込むことの一環と考えたのだろうか。


 別に、恋人の名前を彫りたいと思った訳じゃないから変な憶測はやめろ。


 あくまでけじめを付けたいと思ったから彫りたいと思ったのだ。


 じゃあなんで「スワスティカを滅ぼす」とかわかりやすい文言じゃないって訊きたいんだろ?


 その答えは今から語る。 


 最初は俺だって、そうしようとしていたけどな。


 偶然の繋がりでそういうことになったんだ。


 最初思い付いた時、俺は綺譚蒐集者アンソロジストのルナ・ペルッツに冗談交じりで話した。


 軽く否定されると思った。


 だが、ルナはニコニコと微笑みながら、


「いいんじゃないの?」


 と言った。


「どうしてだ」


 俺の方が問い返したぐらいだった。


「フランツが彫りたいなら彫っていいじゃないか。誰も、それを遮るものはいないさ」


 ルナはいつも通りパイプを吹かしていた。


「だが、身体に負担が掛かるとかなんとか言うんじゃないかと」


「わたしは君じゃないからね。君の痛みは君しかわからない。何とも答えようがないじゃないか」


 煙に巻くとはこのことだ。


「そうか」


「ほんとうはフランツの中ではまだ迷いがあるんだろうね。未知のことを人は恐れるのは当然だよ」


ルナは日常的なことはダメダメなのに、こんな時だけ妙に洞察が鋭い。


 確かに俺は迷っていた。


 自分の身体を痛めつけることへの恐怖感がまだあったんだろうな。


 だが猟人としてハードな修行をしている以上、そんなことで泣いてはいられない。


「いや、恐れてなどいない。俺は彫る」


「なら、そうすればいいさ。それで君が死のうが生きようが、わたしは関係ないんだからね」


「……」


 刺青を彫ったことが原因で死ぬ奴の話を訊いたこともある。


 俺は怖くなってきた。


「でも、彫りたいというなら、わたしの知り合いに刺青師がいる。腕は良いので、他にアテがなかったらいってみたらいい」


 ルナはメモを一枚手渡した。


 俺は無言で受け取った。


 住所が書かれている。


 近くで、歩いてもいける場所だった。


 修行はきつくて、疲れたらすぐ眠ってしまうような日々だ。


 わずかの休日もあまり遠出をしていられない。


 なら、候補としてそこが上がってくることになる。


 それでもなおしばらく迷っていたが、他にはなかなか見つからないし、結局はルナの紹介した店にいくことになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ