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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十七話 愛の手紙(8)

「はぁーい、どちらさまですか」


 すっかりリラックスした感じの声で、ヨハンナは返事をした。


「あたしだ。ルナのメイドのズデンカ。主人ともども、少しあんたらと話がしたい」


「もちろん! お入りください」


 ドアを開いて、三人は中へ入る。


 ルナが作り出したミロスワフとヨハンナは二人で仲良く並んで腰掛けていた。


「どんな御用でしょうか?」


 ヨハンナは穏やかに訊く。


「二人は今後どうされるおつもりですか?」


 ルナにしては穏当な質問だ。


「そうですね。もうバーゾフにいく目的がなくなってしまったので、次の駅で降りて、ミツキエヴィチに戻ろうと思います。ミロスワフさまも、バーゾフには嫌な思い出ばかりで戻りたくないとのことでしたので」

 

「いいですね! ぜひ末永くお幸せに暮らしてください」


 ルナは満面の笑顔で応じた。


――まあ、バーゾフに行くよりはよっぽどましだろうが……。それにしてもルナよ、ひでえ嘘を。


 ズデンカは考え込んだ。


「ありがとうございます。ルナさまがいなければ、きっとミロスワフさまにも逢うことはできなかったでしょう」


ヨハンナは手を握り合わせてルナを拝んでいた。


――全部ルナが作り出したんだがな。


 ズデンカの罪悪感は募った。


「あの、ペルッツさま」


 ミロスワフが控えめに手を上げた。


「はい、なんでしょう」


 ルナのモノクルが光った。


「僕からも感謝したいのですが、すこし、外でお話いいですか?」


「もちろん。あ、メイドも一緒にお願いします。口は硬いので」


 ルナは言った。


――何をする気だ。


 ズデンカは怪訝かいがした。


「それでも構いませんよ」


 ミロスワフは素直に立ち上がり、部屋の外へ出た。


「少し、歩きましょうか」


 結局カミーユをヨハンナの元へ置いていることになった。


 だが、出る時、ヨハンナに不安そうな表情が過ぎっていたので、これで良かったのだろう。


 人の不安を解きほぐすのはカミーユが一番上手いだろうから。


 三人は後退した。


 どこへ行くとない漫歩だ。


「つまるところ、僕というこの存在は幻なのでしょう?」


 ミロスワフは言った。


「わざわざ説明する手間が省けました。さすが賢明な大公さまのご三男だ」


 ルナは拍手しながら言った。


「ペルッツさまもお人が悪い。僕は本来なら実在しない人物で、僭称者です。実際、ここに現れるまでの記憶があまありません。ただ、手紙を書き続けたことと、ヨハンナさんが堪らなく好きだということは確かです。僕は、ヨハンナさんに悲しい思いをさせたくない。でも……」


「あなたはじきに消えてしまいますすからね」


 ルナは無情に告げた。


 ミロスワフは絶望したように項垂れた。


「どうすんだよ」


 ズデンカは思わず口を出していた。


「さあて、どうしよう?」


 ルナは相変わらず暢気だった。


「……あなたが一番得意な手段でやってみては?」


 ウインクしながら付け加えた。


「と言うと?」


「手紙、ですよ。あなた自身は消えても、インクは実在のもの。あなたが書いた文字だけは残ります。都合の良い頃合いを見計らって、ヨハンナさんのハンドバッグにでも入れて置けば、やがて気付くでしょう」


 いつのまに持ってきたのか、紙と万年筆を懐から取りだし、ミロスラフに渡した。


「さて、わたしたちの部屋に行きましょう」


 結局、三人は元の部屋に戻った。


 ズデンカはインクを取り出して、書く準備を整える。


「どうします? 手紙ってものはそもそも極私的なものだ。ヨハンナさんには色々内容を教えて貰いましたけど、本来なら二人だけの大事なやりとりをわたしが見るわけにはいかないので出させて貰いますね」


 ルナは言ったが、ミロスラフは引き止めて、


 「ぜひ、訊いてください。そして、内容についてコメントくださればありがたいです」


 と答えた。

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