第三十七話 愛の手紙(3)
手許にないので、もう記憶もだいぶおぼろげになってしまっているのですが……。
でも、ミロスラフさまに悪い感情を抱いていないことは強調しておきました。
これからも手紙のやりとりをさせて頂ければありがたいです、とも書き添えて置きました。
すぐに返信が来ました。
それも、一週間と経たないうちに。
実はちゃんと届いたのかハラハラしていたんです。何しろ、遠くの国ですから。
「お手紙ありがとうございました。
流れるように美しい、あなたの筆跡!
月並みな言葉かも知れませんが、空を舞う蝶のように感じられました。
一度お見かけしただけですが、心も綺麗な素晴らしい方だという僕の確信に違いはなかったのだと思うと、本当に嬉しくてなりません。
これからも末永くやりとりさせて頂ければと思います」
ああ!
こんな手紙を送られて嬉しくない女がどこにいるでしょう!
小説でしか読んだようなことがない話が自分の身に降りかかってくるなんて。
もちろん苦しい目、辛い目などは私だって嫌ですが、これはロマンスなのです。
ミロスラフさまの手紙を私は肌身離さず持ち歩いています。
すぐに返信を書くとまた一週間以内に届きます。
「僕とあなた間には腹蔵なく全てをさらけだせる間柄になりたいと思っています。
あなたのこころに浮かんだことなんでも語ってください」
最初のうちこそ遠慮していました。
こんな庶民の悩みを、誇り高い貴族の方にお話するなんて。
でも、何度も強く手紙の中で繰りかえされましたので、だんだん、少しずつ。
とうとう、職場のことや、家族のことなど、日常生活で起こる出来事を全て書いて送るようになりました。
その度にミロスラフさまは適確にアドバイスしてくださり、その度に私は胸を高鳴らせました。
でも、二人はなかなか会うことは出来ませんでした。
もちろん私も手紙の中でそれとなく仄めかしたことはあります。
その度に、忙しいと断られました。しかし、とても鄭重に。
私もまさかそのために仕事を休むなんてことも考えられず、ズルズルと月日は過ぎていきました。
ところが、大変なことが起こってしまったのです!
普通は一週間で帰ってくるはずの手紙が、一ヶ月も遅れたことがありました。
「申し訳ありません。
実は、僕は兄に迫害されており、財政的に追い詰められているのです。
命まで狙われ、現在、首都を離れて貧しい暮らしを送っています。
どうか、僅かばかりの支援で構いませんので、この口座に振り込んで頂ければと思います」
すぐに入金しました。当時の給料の半分近くを。
もう、その頃私は銀行内での地位も上がっていましたから、たくさんのお金を動かすことが出来たのです。
すぐにお礼の手紙が届きました。
「たくさんのご支援感謝致します。
今ちょっと身体を壊してしまって、寝込んでいるのですが、お金で美味しい物を買うことが出来たので大変助かりました。
でもなかなかすぐに恢復する様子が見えないので、宜しければこれからもご支援願えれば有り難いです」
なんということでしょう。私は全財産のほとんどを、ミロスワフさまに送りました。
でも、その後しばらく返信はありませんでした。
もしや御身になにか起こったのではないかと気が気でありませんでした。




