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月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

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第三十七話 愛の手紙(2)

 私の元に手紙が舞い込んできたのは、もう三十年も前。


 まだ、二十を半ばと少し過ぎたばかりのことでした。


 とても、不思議な巡り合わせでした。


 私はコジェニョフスキという小さな町で生まれ育ち、そこので銀行に勤め始めたばかりのことでした。


 当時としては珍しくミツキェヴィチで大学教育を受けさせて貰えたので、男性ほどではないですが地元で高い収入を見込める仕事に就けたのです。


 定時通りに銀行に出勤して帰ってくる日々。


 人もあまりいない田舎でしたから、来る人はほとんど顔見知りばかり。


 無理なことを言って絡んでくるお客さんも、強盗を企てようとする人も出て来ませんでした。


 ほんとうに味気がなくて。


 ごめんなさい。こんなことを言ってしまっては怒られてしまうでしょうか。


 職に就けなくて苦労する人もたくさんいるのに安定した暮らしを手に入れられた私がより好みするのは。


 でも、刺戟がないって感じられることが多かったのです。


 もちろん、出会いもありませんでした。


 親からはいろいろ紹介されましたけど、幼なじみばかりですから、男性とは見れなくって。


 そんなこんなで月日が過ぎていこうとしてきたとき。


 最初の手紙がやってきたのです。


 家の郵便ポストを開けてみたら、封筒に差出人の名前が何も書かれていない小さな手紙が置かれていたのです。


 最初は誰かの悪戯だと思いました。


 読まずに捨ててしまってもおかしくなかったのです。


 でも、もしかしたら――。


 一瞬でも変化を期待したのでしょうね。


 開けて見ると強いライラックの香りがしました。


 香水が吹き付けてあったんでしょうか? 読んでみたらビックリしました。


 私に対する熱い恋心が綴られているではありませんか。


 こちらです。


 もうすっかり茶色くなってしまっていて、香りこそ褪せていますけど、読んでみますね。


「ああ、愛しのヨハンナさま


 僕は一度あなたをお見かけしています。


 十年前、コジェニョフスキを通りかかったときでした。


 美しい薔薇の花のようなあなたが往来を横切って行くではありませんか。


 どうしても名前を知りたい。


 しかしその時は公用もあってとても忙しく、すぐに街を去らなければならなかったのです。


 心残りで、夜も日も明けない気持ちでした。


 やがてしばらくの休養を得ることが出来てわたしはあなたを探したくて、いても立ってもいられなくなりました。


 家来を諸方へ馳せさせ、ヨハンナという美しいあなたの名前と住所を突きとめたのが、やっと昨日のこと。


 十年ぶりの心願を果たした気持ちで一杯ですが、まず、あなたに僕という得体の知れない人間は何者なのか告げなくてはなりませんね。


 バーゾフ公国大公ニコライ五世の三子ミロスラフと申します。


 遠くの国なので、お名前ご存じなくても仕方ないと思っております。


 あなたとぜひお会いしたいのですが、立場上なかなか難しく。


 ですが、僕の心は本物です。


 もし、すこしでもこの手紙を読んで返信をしようという気持ちになれば、こちらの住所まで是非お送りください」


 青天の霹靂でした。


 まさか道を歩いているときにこんな素晴らしい方と擦れ違っていたなんて。


 しかし幾ら頭を捻ってみても、そのような記憶など少しも思い出せませんでした。


でも、私にとっては待ち望んでいた非日常が遂に目の前に現れたのです。


 すぐさま私は返信しました。

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