表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月(ルナ)は笑う――幻想怪奇蒐集譚  作者: 浦出卓郎
第一部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/1238

第三十七話 愛の手紙(1)

――ヴィトカツイ王国南部ジンゲル付近


「ふぁー、よく寝たぁ!」


 それでもなお大あくびをしながら綺譚蒐集者アンソロジストルナ・ペルッツは先ほど目覚めた寝台車から廊下を伝い指定の車室まで戻ろうとしていた。


「もう昼過ぎだぞ。カミーユはとっくに戻っている」


 ルナが目覚めるまで、ずっと二段寝台の上の段から良からぬことが起こらないよう見守っていたメイド兼従者兼馭者の吸血鬼ヴルダラクズデンカは文句を言った。


「いいんだよ。太古から偉大な人はロングスリーパーって相場が決まってる」


「そんな話聞いたこともないが」


 ルナは無視して大きく手を振って先へ急いだ。


 部屋に戻ると、先客がいた。


 小柄な中年の女性だ。


 貂の襟付きのコートを着ているが、この季節ならそろそろ暑くなるだろう。


 さきほど停車した南部の巨大な駅、ジンゲルにて乗ってきたのだろうか。


 ナイフ投げのカミーユ・ボレルは畏まった様子で、向かい合っていた。


「初めまして、わたし、ルナ・ペルッツと申します」


 ルナは愉快そうに脱帽した。


「これはまあ、あの有名な。私ははヨハンナです。しばしの間どうぞ、よろしくお願いします」


 老婦人は頭だけ軽く垂れて会釈する。


 ルナは座席に腰を下ろした。


 ズデンカも従った。


 今度はルナと並ぶことが出来て少し安心する。


「どちらにお向かいですか?」

 ルナは訊いた。


――流石にいきなり話をねだり始めたりはしないか。


 ルナの空気の読めなさからすればそのようなことがあってもおかしくないので、ズデンカはハラハラと見守っていた。


「バーゾフです」


 ヨハンナは答えた。


 ゴルダヴァの更に南東に位置する小国だった。


 生まれた国の近所の筈なのにズデンカは一度もいったことがない。


「何でそんなところまで」


「実は、私、何十年も文通をしておりまして、そのお相手に初めて会いに行きたいと思っていまして」


「なぜ今さらになって」


 ルナのモノクルがきらりと光った。


 綺譚の匂いを嗅ぎつけたのだろう。


「実は私、もう病気で長くないんです。だから、まだ生きているうちに顔も知らないけどずっと手紙のやりとりをしていた相手に会ってみようと重い腰を上げて旅に出ることに致しました」


 ヨハンナは夢見るように両手を握り合わせながら言った。


「もしかして、その相手は……」


 ルナは少し含みを持たせて訊いた。


「はい。男性だと仰っています。もちろん、合ったことはないので、本当にそうか、その名前が偽りではないのかの保証はありませんけどね」


 ヨハンナは丁寧に言葉を句切って話した。


「素敵な話ですね……」


 思わずカミーユが漏らした。


「あっ。すみません! 私なんかが口を挟んじゃって! でも、一度も会っていないのに心は通じ合っているって、素敵じゃないですか! まるで少女小説みたいですよ!」 


 謝りながらも饒舌に語り出していた。


――こいつもだいぶルナの毒気に当てられたな。


 ズデンカは内心苦笑していた。


「実に興味深い! 詳しくお話してくださいませんか」


 ルナは懐から手帳を取り出した。


「はい、それでは」


 穏やかな調子を崩さず、ヨハンナは語り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ